ピアノの鍵盤数は88鍵です。
以前に「ピアノという楽器」「4kHzの壁」でピアノの音階と鍵盤数について書きましたが、過去には88鍵ではない時代や現在でも88鍵より鍵盤数の多いピアノがあります。
88鍵盤ピアノの最低音と最高音
人間の耳の可聴域は凡そ20Hz~20kHzと言われています。
年齢を重ねるごとに高域の聴覚は落ちていき、60歳を超える頃には12kHzあたりになるといわれています。
可聴域についてはCDの規格と同じですが、これは人間の可聴域に合わせて規格化されたということもありますが、カラヤンのベートーベンの交響曲第9番二短調の
全曲が入る時間が良いということも参考にされたそうです。
このことについては「44.1kHz」で少し書いています。
標本化と量子化について興味のある方は「kHzとbitの関係」「Dynamic range」もどうぞ。
話を戻して88鍵盤ピアノのA0=27.5Hzで最高音は C8=4186.01Hz(4.1kHz)です。
可聴域ではもっと高音でも聞こえると思いませんか?
しかし人間の耳は20kHz付近まで聞こえても音階として認識できるのは4kHzあたりまといわれています。
そう、ちょうど88鍵ピアノの最高音ですね。
低域はA0から更に5半音下がってもE0で20.6Hz。
もう少し低域でも人間の耳で聞こえるようです。
しかし人間の耳では正確な音階を判別するのは難しくなってきますし、何より調律が困難となってくるのでピアノの音域はA0=27.5Hz~最高音C8=4186.01Hzとなったようです。
ピアノの誕生はいつ?
ピアノが制作されたのは1709年にイタリアのハープシコード製作者の手によって54鍵盤で製作されていました。
ピアノの前身であるクラヴィコードやチェンバロは、もともと4オクターブ(約50鍵)です。
クラヴィコードは14世紀頃にヨーロッパで誕生した鍵盤楽器で、チェンバロ(Harpsichord)は16~18世紀に広く使われた鍵盤楽器でした。
チェンバロはハープシコードとも呼ばれます。
モーツァルトの時代である18世紀後半のピアノの音域は約5オクターブで60鍵程度でした。
ベートーヴェンの時代である19世紀初頭では音域が約6オクターブ(72鍵)になっています。
リスト、ショパンの時代である19世紀中盤から後半で約7オクターブ(85鍵)となり、現在の88鍵ピアノに近づいていきます。
しかし、標準仕様というものはまだ出来上がっていない時代でした。
スタインウェイによる88鍵盤の標準化
1853年に創業したスタインウェイ社。
1870年代にその88鍵盤ピアノが高く評価され標準的なピアノとして広がっていきました。
スタンウェイ社のピアノが評価された理由として音響的に優れていたことがあげられています。
名門メーカーであったベーゼンドルファー社のピアノは前身であるチェンバロの発展形であり宮廷で使用する前提で音響設計されていました。
ウィーンや皇帝御用達のヨーロッパの設計思想でシューベルトやリストが使用していたピアノとしても有名です。
それに対してスタンウェイ社は創業者こそドイツであったものの創業はニューヨークであったため多目的ホールでの使用を前提に音響設計されたものでした。
ちなみに現在ベーゼンドルファー社は2008年よりヤマハの参加となっておりヤマハが正規代理店です。
そしてスタンウェイ社のミドルレンジモデル「ボストン」はカワイが制作しているようです。
カワイのピアノも有名ですがこれはスタンウェイ監督の下でピアノ制作している影響でしょうか。
ところがです。
ヤマハのピアノはスタンウェイの音色に近い、カワイの音色はベーゼンドルファーに近いとも言われており不思議なものですね。
カワイのピアノはカワイトーンとも呼ばれて親しまれています。
かの有名なドラム&ピアノ=伝説バンドの方もカワイのピアノを使用していました。
特注KAWAI CR-40Nです。
ENDLESS RAINのMVで見ることができます。
話がそれました。
響きの悪い多目的ホールでの使用を念頭に設計されていたスタンウェイ社のピアノは音響に優れ、よく響くピアノとして広がっていったのでしょう。
そうやって当時のスタンウェイピアノの88鍵と鍵盤配列が標準として一般化していきました。
88鍵盤以上のピアノ
スタンウェイ社の評価によって88鍵盤が標準となっていったピアノですが、ベーゼンドルファー社には9鍵盤多い97鍵盤のピアノがあります。
「Model 290 Imperial」
C0からC8まで8オクターブの音域を持つピアノです。
価格は税込み47,080,000円。
インペリアルはピアノの最高峰と言われるだけのことはあります。
他のピアノでは
ディヴィッド・ルービンシュタイン・ピアノ
R-371/97鍵(C0~C8)
ベーゼンドルファー
Model 225/92鍵(F0~C8)
スチュアート・アンド・サンズ
97鍵(F0~F8)
102鍵(C0~F8)
108鍵(C0~B8)
ステファン・ポレロ
97鍵(F0~F8)
102鍵(C0~F8)
クリス・メーネ -ザ・ストレート・ストラング・グランド・ピアノ
90鍵(G0~C8)
上記の88鍵盤を超えるモデルでも特注であったりスポットモデルであったりするかもしれないので、一般流通目的であったか否かは不明なモデルもあります。
過去発売されていたモデルで製造中止としてアナウンスのあったモデル
ペトロフ
92鍵(F0~C8)
ベーゼンドルファー
Model 275/92鍵(F0~C8)
ベーゼンドルファー「Model 290 Imperial」のC0~C8を基準としてみると、
スチュアート・アンド・サンズ、ステファン・ポレロは高域側も拡張しています。
ピアノ音源の収録サウンド
ピアノ音源でもベーゼンドルファー Model 290 Imperial がサンプリングされているものがあります。
しかしキャプチャ画像にもあるようにGUIでは最高音はC8ですが最低音はA0までのGUIとなっています。
MIDI入力では入力出来るのでしょうがGUIではそこまで対応していないものもあるようです。
MIDI鍵盤では88鍵盤が最大で61鍵盤が主流、設置スペースによって49鍵、37鍵、25鍵もあります。
ピアノやシンセサイザーでは76鍵盤もありますね。
MIDIではノートを0~127で入力するので実質128鍵盤分の音階を表現できます。
MIDIでは128音階を表現できるのでベーゼンドルファー Model 290 Imperialのソフトウェア音源も実機最高鍵盤数の108鍵盤もマウスではMIDI入力できます。
まとめ
「ピアノは制作当初は約50~60鍵で標準的な仕様は定まっていませんでしたが、スタンウェイピアノの一般化によって88鍵盤と音域が標準化していった。」ということになりますが、これには調律の問題や人間の可聴域などの兼ね合いもあったということでよいでしょう。
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