いよいよ決戦の夜だ。
解放軍は準備に忙しい。
俺達はこれからニクスの山岳地帯にあるヒドラ軍の捕虜の町に向かう。
解放軍の数からいって勝ち目はまずない。
それでも俺達は作戦を決行する。
みんな死ぬ覚悟は出来ている。
ここを去る兵もいなかった。
俺達のこの行動でカロンが、近隣諸国が目を覚ませば。
俺達の役目はそこまでだ。
レイモンドの言葉を借りれば、『後のことは時代にまかせる。』
無責任にも思えるこの言葉には彼らの様々な思いが込められている。
『後のことは時代にまかせる。』
俺達の本当の目的は歴史を動かすことなのだ。
その為には数多くの犠牲が必要なのだ。
如何にも軍人らしい、いや、あの3人らしい考えだ。
しかし今では俺もそう思うのだ。
クレイグとアベルが俺の所にやってきた。
「トライオード、何も言わずに聞いてくれ。」
クレイグが言った。
アベルは黙っている。
「お前はカロンの国民ではない。」
「お前を巻き込んでしまった事を深く後悔している。」
「しかし、今の俺達にはお前の力が必要なのだ。」
「だがな、トライオード。」
「俺達の為に、カロンの為にお前まで死ぬことはない。」
「お前はアベルと行け。」
「そして彼女を救出しろ。」
「その後は東の国境を目指して走れ。」
アベルは言う。
「クレイグの言うとおりだ。」
「東の国はニクスと同じ中立国だ。」
「まあ、資源がないことからヒドラには相手にもされていないがな。」
「そこへ彼女と逃げろ。」
「レイモンドがお前達の亡命を既に伝えてある。」
「俺の部隊が捕虜を解放する。」
「お前は彼女を探し出せ。」
「そして逃げろ。」
「俺達のことは構うな。」
「もう覚悟は出来ている。」
「お前のお陰で今日まで俺は生きている。」
「そして、今こうして誇り高き作戦に参加できた。」
「俺は幸せな軍人だ。」
「カロンとニクスの為に死ねるんだからな。」
「俺はお前に感謝している。」
「だから、お前は逃げろ。」
「そして生きろ。」
「そして俺達のことを後世に伝えてくれ。」
「何度も言うが俺達は幸せだ。」
「お前には判らないかもしれないがそれが軍人というものだ。」
「お前のお陰で幸せなんだ。」
「今度はお前が幸せになる番だ。」
「いいか、わかったな。」
俺は無言だった。
「クレイグ、大丈夫だ。」
「彼女を見たらこいつは子犬みたいにしっぽを振って逃げていくさ。」
アベルは笑った。
今回ばかりは俺も藁えない。
「これはレイモンドからの伝言だ。」
「ちゃんと伝えたぞ。」
そう言うと二人はどこかへ行ってしまった。
俺は迷った。
レイモンドも多分迷っている。
レイモンドはどうする?
俺はどうする?
そうこう考えているうち夕陽が落ちて月が登る。
今夜は満月だ。
星も綺麗だ。
長い夜が始まった。