大きな食堂に料理が並べられる。
あの悪趣味な宮殿と違い普通の料理だ。
3人の大佐は談笑をしながら楽しそうに食べている。
そこにまるで場違いなマドックと俺がいる。
「トライオード、マドック、食事は進んでいるか?」
「今日は無礼講だ、構わずやってくれ!」
少し酒の入っているレイモンド大佐だった。
長い宴が終り、夜が更けかけた刻だった。
急に真顔になったレイモンド大佐が言った。
「この部屋に居る奴は信用できるな。」
アレクシス大佐が頷き、奴も頷く。
俺が信用できるという事か?
「俺が休暇を取ったのは他でもない。」
「俺もやっとヒドラの連中に使用された。」
「こうして一人で出歩けるようにもなった。」
「それまでは俺もかなり酷いことをやってきた。」
「思い出せばヘドが出るようだ。」
「この中で一番心配なのはクレイグ、お前だ。」
奴はこの中で唯一毛色が違う生活を送っている。
それに性格もこの二人の大佐とは大きく頃なる。
「どうだクレイグ、最近の様子は?」
「すまない、俺はまだダメだ。」
「ヒドラの監視員が付いている。」
「ああ、あの執事のことか。」
オスニエルの事を言っているのか?
オスニエルがヒドラの監視員ってことか?
「今日はよくここにこれたな。」
「奴は俺の行動を報告をする為に今はヒドラに帰っている。」
「そうか、それでか。」
「お前には損な役回りをさせているな。すまない、クレイグ。」
レイモンド大佐が頭を下げた。
「よせ、レイモンド。自分で選んだ道だ。」
「そうか。」
「アレクシス、クレイグ。」
「俺がお前らを尋ねてきたのは他でもない。」
「あの日の誓いの確認をする為だ。」
あの日の確認?
「レイモンド、俺は変わっていない。」
アレクシス大佐が答える。
「俺もだ、レイモンド。」
奴も答える。
「そうか、辛い決断だな。二人とも・・・。」
「いや、俺達の方こそ申し訳なく思っている。」
「お前にあんな事を頼んだんだ。」
「お前が一番辛いのは知っている。」
奴はそう言った。
どういう事なんだ?
「二人とも・・・、本当に良いんだな。」
「ああ、既に覚悟は出来ている。」
「家族もその覚悟は付いている。」
「そうか・・・。」
その神妙な顔つきから何となくの想像はつく。
これから彼らは『反逆罪』になることを行なうつもりだ。
いったい何を?
「それとマドック、お前も巻き込んでしまったな。」
「本当に申し訳なく思っている。」
「俺達はお前に何と詫びたらよいのか・・・。」
三人はマドックに深々と頭を下げた。
「頭を上げて下さい!大佐!」
「私(わたくし)にはもったいありません!」
「お気持ちだけで十分であります!大佐!」
「そうか・・・。」
「お前の家族も巻き込んでしまった俺を許してくれ、マドック。」
マドックの家族も?
何故だ?
レイモンド大佐は続けた。
「これから俺は・・・。」
大佐の声が詰まる。
「お前達の家族を殺しに行く。」
俺は驚いた。
何も考えられないくらいに。
「良いんだ、レイモンド。」
「俺達も、俺達の家族も用意は出来ている。」
「そうだ、レイモンド。」
「ヒドラの連中に殺されるより、お前の手で死にたいと
俺達の家族は言っている。お前は俺達の誇りだ。」
「それより、こんな辛い役回りをさせてすまない、レイモンド。」
俺は堪らず話に割って入った。
「これはいったいどういうことだ!」
俺は立ち上がり彼らに叫んだ。
そしていつもの口調に戻っていた。
奴が手の合図で俺を制止する。
「いや、良いんだ、クレイグ。」
「彼にもきちんと話そう。」
「トライオードも俺達と同じ、辛い経験をしてきたじゃないか。」
奴は俺を制止する手を下げ、今度は座るように合図した。
「トライオード、聞いてくれ。」
そう言うとレイモンド大佐はゆっくりと話始めた。
俺達はカロンがヒドラと同盟を結ぶことを
少し前から情報部を通じて知っていた。
そしてこれから何が始まり、どう変わるかも予想が出来ていた。
そこで、俺達は話し合った。
俺達は言いなりになろう。
そして自ら進んで手を汚そう。
けれど殺した人間の事を俺達は一生忘れないでいよう。
そして3人で仲良く地獄に落ちようと。
その話をマドックは聞いてしまった。
戦況の報告に俺の所へ来たんだ。
そしてマドックは俺に言った。
自分も一緒にと。
そこで俺はマドックをアレクシスに預けた。
俺達はヒドラの言いなりに動いた。
非道なこともした。
人として許されないこともだ。
一般人も殺した。
村を焼き払った。
女子供も殺した。
ありとあらゆる非道の限りを尽くした。
俺達はヒドラに認められ優遇を受けた。
ただクレイグだけは俺達と少し事情が違っていた。
クレイグは俺達より正義感が強い。
女子供には手を出さなかった。
村を焼く払う命令も最初は背いた。
それでもクレイグはヒドラにとっての成果は上げていた。
そこでヒドラはクレイグに監視を付けて見張ることにした。
それがあの執事だ。
「話は聞いているぞ、クレイグ。」
「お前もかなりの役者だな。」
「あの執事の前では相当の悪態をついているらしいじゃないか。」
「俺の所にまで噂は届いている。」
「あいつは変わってしまった。」
「鬼畜のクレイグ・・今ではそう呼ばれているらしいな。」
「ああ、俺に相応しい名前だと思っているよ。」
「ヒドラのスパイとしての役割をかって出て、
自分の部隊を見殺しにしたんだ。」
「俺が殺したのと一緒だ・・・。」
「何と言われても俺は構わない。」
奴はあの夜のことを言っているのか・・・
エノーラやアベル、ホレス達が死んだ夜のことを。
「自分の部隊を見殺しにした俺だ。」
「落ちるのは地獄だとわかっている。」
「安心しろ、お前一人では行かせない。」
「俺達も一緒だ。」
少し間を開けて奴はこういった。
「今度は3人で地獄をのっとってやろう。」
「そして地獄を天使達の元に返してやろう。」
それを聞いたレイモンドが大声で笑い出した。。
「クレイグ、実にお前らしい考えた。」
「それにそこには壮大な夢がある。」
「お前という奴はどこまで正義感が強いんだ。」
3人は笑っていた。
俺は笑えない。
奴のせいで多くの仲間が死んだ。
俺は奴を許して笑うことなんか出来ない。
それにロゼッタも・・・・。
レイモンドが静かに話し始めた。
「同士も集まった。」
「数ではヒドラ軍に勝てないが、俺達の行動は間違ったカロンの
王と国民の目を覚まさせるには十分だろう。」
「俺達が死んだ後は・・・その先は時代に任せよう。」
「いいか、みんな。一月後に『ここ』に来てくれ。」
「同志たちが待っている。」
そんな時だった。
どこからか教会の時を刻む鐘の音が聞こえてきた。
「みんなコップをと取れ!」
「今夜は誓いの乾杯だ。」
レイモンドが音頭をとる。
「正しき日のカロンに乾杯!」
「乾杯!」
ここに居るみんなは一気に飲み干したが、
俺だけは飲むふりをした。
俺は奴を・・・クレイグ大佐を許せない・・・。
たとえどんな事情があるにせよ、
仲間を殺したのはクレイグであることには違いない。
そしてロゼッタ・・・・。
君を殺したのも・・・・。
俺はどうしたらいい。
どうしたら良いんだ、ロゼッタ。
俺にはロゼッタの笑い声が聞こえた。