ヒドラが占領するニクスの東の街へはまだ遠いはずだが、
目の前に小さな集落が見えてきた。
俺たちはそこで休憩をすることにした。
それでもまだ1時間は歩かないとたどり着けないだろう。
しばらくするとその集落がよく見える丘に到着した。
男たちは絶句した。
集落は既にヒドラの軍によって焼き払われていた。
「まだ生存者がいるかも知れない!戦闘の準備をして急げ!」
小隊長がそう告げると急いでその集落に向かった。
「これは酷いな。」
火はまだあちこちで燻っている。
しかし昨日今日ではなさそうだ。
随分と日が経っているように見える。
焼け崩れた家屋の一部が風に煽られて今でも燻っているだけだ。
「おい!あれを見ろ。」
誰かが叫んだ。
その方向に目を向けると血の気が引く光景が飛び込んできた。
人だ。
あちこちで人が倒れている。
いや、人というよりは炭だ。
焼けて炭になった木の棒があちこちに散乱しているように見える。
「ヒドラの奴、これはあまりにも酷い仕打ちだろう・・・。」
誰かがボソッと独り言のように呟いた。
きっとこの場にいる誰もが同じ思いだろう。
それでも生存者がいないかと捜索を始めた。
「先生よう。」
そう話しかけてきたのはアベルだった。
「アンタの出番はないようだぜ。」
「・・・あぁ、そのようだな。」
女や子供だろうか。
か細く小さい遺体もあちこちにある。
「ヒドラの奴・・・、女子供にまで手を出しやがったか・・・。」
アベルは独り言を呟いている。
遠くから兵が走ってアベルの所にやって来た。
「アベル。どうやら生存者はいないようだ。」
「どうする?」
一呼吸おいてアベルは言った。
「おい!皆で村の中央に大きな穴を掘れ。」
それだけでアベルの真意は兵に伝わった。
小隊長は何も言わずにアベルに向かって頷いた。
長距離の移動で疲れているハズだが誰も文句を言うものはいない。
静かに。そして黙々と穴を掘り続けている。
そして誰からともなく散乱する遺体を穴に放り込んでいく。
手荒いやり方だが、これが俺たちに出来る精一杯だ。
最後の遺体を穴に放り込むと静かにその穴を埋め始めた。
既に辺りは暗くなり始めている。
夜空に月が昇り始めた頃、
先程までのポッカリと空いた大きな穴は遺体と土で埋め尽くされた。
そして皆一礼をしてその場を静かに離れた。
「今日はここにテントを張る。」
「酒も持って来い!今夜は弔いだ。」
アベルの音頭で弔いの酒盛りが始まった。
兵隊たちはいつもこうやって行き場の無い気持ちを酒で流しているのだろう。
その夜のアベルはいつになく荒れていた。