体中の痛みに俺は起こされた。
ここはどこだ?
どうやら盧のようだな。
辺りは暗くて何も見えないがここは俺一人の様だ。
専用盧か。
手厚い『もてなし』だ。
そういえばどうして俺はここに居る?
どうして・・・。
記憶の中ではクレイグが何かを食べている。
そして俺に何か進めているようだ。
クレイグが俺に言っている。
何て言ってる。
味はどうだ?
何のことだ。
いったいこれは何の記憶だ?
・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
思い出してしまった。
俺はロゼッタを。
食べた。
「グハッ、グハッ、グェァ。」
俺は吐き続けた。
ロゼッタを。
胃の中もモノを。
胃液の全てを。
胃そのものさえここに吐きだしてしまいたい。
俺の中に残ったものは・・・・。
俺の中にあるものは・・・・・。
クレイグ!!
貴様への激しい怒りと、憎しみと、恨みと。
体中からフツフツと湧き出る・・・。
抑えようのない激しい殺意だ!
何かの小説で読んだことがある。
愛するものが病で先立ち、
それを悲観した残されし者が愛する者を食した。
それはその生前、残されし者は愛する者を
自らの血と肉として共に生きることを二人で誓っていたからだ。
しかし、現実は違う。
激しい嘔吐と自分への嫌悪感。
彼女のへ罪悪感と冒涜感。
その尊厳さえも汚してしまった罪の意識しか残らない。
俺はもう『人』ではない。
俺は今日限りで医者を辞める。
もっともあの日・・・。
仲間の兵に銃を向け、その命を奪ったときから
俺は既に医者を捨てていたのかもしれない。
俺はただの殺人者だ・・・
それに人としての道も外してしまっている。
コツ、コツ、コツ。
暗闇から足音が聞こえてきた。
それはどうやらこっちに向かっているようだ。
暗闇のなかであいつの姿が浮かび上がる。
それはクレイグだった。
「貴様・・・。」
「気分はどうだね。トライオード君。」
「もうすぐ兵が来る。」
「一緒に私のところへ来たまえ。」
「もっともお前に断る権利はないがな。」
奴は笑いながら帰っていった。
暗闇の中に俺の吐しゃ物と血の臭いだけが残った。
ロゼッタ。
お前は言った。
自分を許せと。
俺には・・・無理だ・・・。
自分を許して生きていくことはできない。