俺は無理やり服を着替えされられ奴の前に座っている。
ここは・・・あの忌まわしき部屋だ。
「トライオード君、良く似合っているよ。」
「君には少々勿体無いがな。」
「服の品が下がって見えるよ。」
奴はそういうと声高らかに笑った。
俺はカロンの軍服を着ている。
いや着せられている。
激しく抵抗したが兵に抑えられた。
兵は俺に銃を向けた。
その時・・・俺は思った。
俺はここで死ぬわけにはいかない。
俺が死ぬときは奴も死ぬときだ。
奴をこのまま生かしておく訳にはいかない。
俺はおとなしくそれに従った。
クレイグが呼び鈴を鳴らす。
あの時と同じだ。
執事と思われる人間が出てきた。
そして続くように食事が運ばれてきた。
豪勢な食事だ。
「ここは客人をもてなすために作った俺の家のようなものだ。」
「どうだ気に入ったかい?」
俺の前にも食事が並べられた。
あの日の光景を思い出した。
俺は激しい嘔気に絶えられなかった。
「グェ、グェ、グェァ。」
「お前は案外弱い奴だな。」
「もっとたくましい奴だと思っていたが。」
奴は俺を見て笑っている。
「まぁいい。今日は余興なしだ。」
「安心して食事を始めたまえ。」
そう言うと奴は食事を始めた。
俺はまだ吐いている。
「食べないのかい、トライオード君?」
「腹が減っては戦が出来ないというではないか。」
奴の声色が少し変わった。
「私を殺すんだろ?」
「それなら食べておいたほうが良いと思うが?」
既に声色は戻っていた。
奴の思い通りにはなりたくないが奴の言う事は正しい。
俺はチャンスを待って奴を殺す。
それまで死ぬわけにはいかない。
俺は無言でそれに口をつけた。
もうこれが何の肉でも構わないとさえ思った。
俺は人を捨ててでも生きる。
奴を殺すまでは。
「グッ!」
「どうした?トライオード君。」
「あぁそうか、口の中が痛むのか。」
クレイグは執事を呼んだ。
「オスニエル、奴の食事は今度から軟らかいものにしてやってくれと
シェフに伝えておいてくれたまえ。」
「それとキャンプから軍医を呼んで彼の治療を頼んでおいてくれたまえ。」
「[彼]は客人だ。宜しく頼むよ。」
それを聞くとオスニエルは奥の部屋に去っていった。
「気持ちの悪い奴だな。」
「俺をどうするつもりだ?」
「殺すならさっさと殺せ。」
「良いのか?」
「今ここで殺しても。」
奴は笑っている。
俺の葛藤を知るように。
「さてと、少しお喋りを始めようじゃないか、トライオード君。」
「しかし君は心は弱いが体の方は屈強らしいな。」
「あの戦火のなかで生きていたのはお前だけだ。」
「しかもあの橋から落ちても生きているのだからな。」
「大した奴だ、こればかりは敬服するよ。」
そうか俺だけが生き残ったのか・・。
なら何故、俺が橋から落ちたことを奴はしっている?
俺はクレイグに聞いた。
「なぜ貴様が俺が橋から落ちたことを知っている。」
「アベルから聞かなかったか。」
「自軍にスパイがいたと。」
「!!!!!!!!!!。」
俺は驚いた。
まさか自軍の大佐がスパイだとは、
誰も思いもしなかっただろう。
あのアベルでさえも・・・。
「貴様という奴はどこまで・・・。」
「汚いとでも言いたいのか?」
「まあ好きに思え。」
「俺とっては痛くも痒くもないことだ。」
この男はどこまで地に落ちているのだ。
「それで貴様だけ生き残って、こうやって悠々としているのか。」
「死んでいった仲間達の血の上でだ!」
奴に俺の言葉は届いていないようだ。
平然とした顔で食事を続けている。
「あれから色々とあったのだよ、トライオード君。」
「君が平和に暮らしているうちにね。」
「ところで戦争はいまでも続いていると思うか。」
「ああ、続いていると聞いている。」
「それに投降した村の市場には戦車が走っていたしな。」
「おお、あれを見たのか。」
「あれは我が軍の最新兵器だ。」
あれが最新だと?
あんな博物館でしか見られないような戦車がか?
俺を馬鹿にするのもいい加減にしろ。
カロンの情勢が悪く、どこかの博物館から
引っ張り出してでもきたのが関の山だ。
「我が軍は向かう所に敵なしだ。」
この男はどこまで強がりを言えば気が済むのだ。
「ところでトライオード君。」
俺は返事をしなかった。
「君には俺の側近として仕事をしてもらうことにした。」
「!!!」
俺をか?
奴は何を考えている。
「その方が俺を殺すチャンスがあるだろう?」
「それに断る権利は君にはない。」
「断れば・・・・そうだな。」
「良い案が閃いた。そうだ、次は投降した村を焼き払おう。」
ニクスの村を・・・か?
いったいどういう事だ。
カロンがニクスを攻撃するのか?
奴は本当に何を考えているのだ。
いや待て。
奴は今『次は』と言った。
どういうことだ?
嫌な予感がして、全身に鳥肌が立った。
俺は奴に質問した。
「『次は』とはどういう意味だ。」
「お前の想像どおりだよ、トライオード君。」
「まさか!貴様!!」
「そのまさかだ。君の暮らしていた村は既に焼き払われた。」
俺は絶句した。
バン!
俺がテーブルを叩いた音が大きな部屋に鳴り響いた。
「どうして!どうしてあの村を焼いた!」
「どうして・・・・、どうして・・・。」
俺は声にならない声で同じことを繰り返している。
「どうして貴様はあの村を焼いた!」
奴は何食わぬ顔をして飯を食っている。
「あの村か?」
「お前が投降せず逃げることもあると思ってな。」
「偵察を付けていたのだ。」
「お前は既に村を出た後だったが。」
「そしたらあの村の連中がお前を殺さないでくれと
兵に詰め寄ってきたという。」
「そのうちに騒動に発展した。」
「我が軍に盾突くものには容赦はしない。」
「それが同盟国のニクスであってもか!」
俺はテーブルを叩き奴に言った。
「お前は何か勘違いをしている。」
「ニクスであってもではない。」
「ニクスだからだ。」
俺には奴の言っている意味がわからない。
いったい何がどうなっている。
「そうか、お前は知らないのか。」
俺が何を知らないというのだ。
「同盟国はヒドラだ。」
・・・俺の頭は混乱している。
カロンの同盟国がヒドラだと?
世話になったニクスの村では誰もそんなことを言ってはいなかった。
「まぁこのことはニクスの民は知らないがな。」
「今でもニクスの民はカロンを同盟国だと思って
色々と協力してくれている。馬鹿な奴らだ。」
・・・いったい何がどうなっているんだ。
何を信じればいい。
俺は何をどうすれば良いというのだ。
・・・教えてくれ・・・ロゼッタ。