レイモンド隊の動きが止まった。
捕虜の町は直ぐ前だ。
レイモンドがサインを出す。
アレクシスとクレイグの隊の方向に手が動いた。
『行け』
心の中にレイモンドの声が聞こえた。
そして3つの隊はV字型となって、ゆっくりと、そして静かに、
捕虜の町に向けて再び進行を始めた。
風が一瞬強く吹いた。
次の瞬間。
レイモンドの隊は立ち上がり、そして声を上げて・・・。
捕虜の町の正門めがけて突入を開始した。
激しい銃声が鳴り響いているハズだ。
しかし俺の耳には何も聞こえない。
まるでスローモーションを見ている様だった。
町にゆっくりと灯りがつきはじめた。
異変に気付いたのだ。
今頃、中の兵は武器を手にして正門に向かっているのだろう。
正門にまだ敵兵の姿は見えない。
町の見張り棟からヒドラの兵が墜ちて行くのが見えた。
ヒドラの兵が正門に集まり始めた。
俺達は町の外壁の脇に到着した。
もうここからレイモンド隊の姿は見えない。
さよなら、そしてありがとう。レイモンド大佐。
俺は心の中で呟いた。
そんな表情を察してかアベルが話かけてきた。
「トライオード、戦場に感傷は不要だ。」
「死んでいく仲間の為にも前だけを見て進め。」
俺は素直に頷いた。
背後から音だけが聞こえてくる。
銃声。
壁が崩れる音。
物が倒れる音。
雄叫び。
悲鳴。
断末魔。
これが戦場というものなのか。
あまりに惨い、惨すぎる・・・。
俺は耳を塞いだ。
俺達の隊は町の裏に到着した。
アベルが壁の破壊に取りかかった。
案の定ヒドラの兵はいない。
正門に集中しているようだ。
しかし鉄線に阻まれて思うように破壊が進まない。
アベルが隊に声をかける。
「時間が無い!」
「急げ!」
それを聞いた隊に力が入る。
やっとの思いで人が3人ばかり通れる幅の穴が空いた。
そこからクレイグとアベルの隊は町に突入していく。
先程と比べて静かなる突入だ。
声を上げず、身を屈めて、物陰に隠れながら。
クレイグとアベルの隊は町に散っていった。
アレクシスの隊はこの場に残り、出てきた捕虜に道を伝える。
そして出てきたヒドラの兵を撃つ。
アレクシスは目で俺に合図をした。
『行け、トライオード。』
俺はアレクシスに一礼し、そして町に入った。