・Requiem~a novelette~

第2話 三国の利害

2014/11/08

・・・眩しい。

どうやら夜が明けたようだ。

相変わらず頭はぼんやりと重い。
昨夜の質問の答えも判らないままだ。

「おい。」

横に寝ていた彼も起きたようだ。

「なんだ。」

知らない言語が理解できる。そして話すこともできる。

もういい。俺は気にしないことにした。

「釣りに行かないか。」

戦場におよそ似つかわしくない彼の誘いに俺は思わず聴き直した。

「釣りに行かないかと行ったんだ。」

答えは同じだった。

「危険じゃないのか。」

そう思うことは自然だろう。

「ここは我が軍の占領域にある前線キャンプだ。」
「前線とはいっても向こうさんとの境界線は随分と先だ。」

少しの間が空いた。

「大丈夫だろうよ・・・いや、多分な。」

おいおい、頼むぞ。
釣りなんてものは命がけでやるもんじゃない。

「キャンプの食料も減ってるし、最近では援軍からの配給も減っている。」
「自分達の食料は自分達で稼がなきゃいざという時に力が出ないぜ。」

「さあ、行くぞ。」

俺の同意は必要ないのか。
話を聞いているうちに勝手に決まってしまった。

大の男がふたり木陰から釣り糸を垂らしている。

滑稽以外の何物でもないがここは戦場、
誰もそんなことは気にしないのであろう。

沈黙の中で水の音だけが聞こえている。

少し気まずく感じてきたので、
俺は昨夜の質問をぶつけてみることにした。

「なぁ、おい。」

「なんだ。」

「これから可笑しなことを聞くが気にしないでくれ。」

「あぁ、お前がオカシイことくらい知っているよ。」
「軍人家系でないお前が進んで兵隊になるなんて。」
「みんなお前は頭はどうかしてると言ってる。」

「そうか。それならいい。」

「何がいいんだ。ますますおかしな奴だな。」

俺は軍人家系でないこと。
自ら進んで入隊したことが判った。

いったい何のために?

「ここはいったいどこなんだ。」

まずは軽い質問から始めたつもりだった。

おいおい頼むよといった表情で返事か返ってきた。

「ここは3カ国国境線に近い山岳地帯だ。」
「いま俺たちはそこにいる。」

「3カ国って?」

既に呆れた表情を通り越している顔だ。

「お前、本当に大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫だ。」

「お前は元々この辺りの生まれじゃないのか。」

「それで知らないのか?」

「まあいいか。」

怪訝そうだがどうやら話を続けてくれるようだ。

「1つは我々の国、カロンだ。」
「そしてニクスとヒドラ。」

「ニクスは放牧の民で元々争いを好まない。」
「豊かではないが広大な面積を持っている。」
「そして最近になって戦争を放棄して中立国となった。」

「ニクスは俺達の敵か。」

怪訝そうな表情のままで彼は答える。

「ニクスは敵じゃない。どちらかと言うと味方だ。」

「戦争を放棄しているのに味方なのか。」

「ホントに何にも知らないんだな、まぁ聞けよ。」

「ニクスは大きな国だ。山もあれば川もある。無限に思える草原もある。」
「本当に美しい国だ、だがそれが不幸の始まりだ。」

「どういうことだ?豊かな国が何故不幸なんだ。」

「ニクスの山岳地帯には鉱山がある。草原には油田が、
そして大河には莫大な量の水もある。」

そういうことか。
状況が薄々とではあるが理解できる。

彼の話は続く。

「ニクスはそれらの資源について何の興味も持っていない。」
「我が国カロンも過去数度にわたってニクスを植民地とすべく
争いを起こしてきたが、ニクスは何の抵抗もなくただ殺されていた。」

「カロンは他の国々から虐殺と侵略と止めないと、あらゆる強制力を
以てカロンと対峙すると宣告を受けて引き下がった経緯がある。」

「では今回の戦争の引き金は何だったんだ。」

「近接3国の最後の国のヒドラだ。」
「ヒドラはカロンと同じようにこれまで幾度となくニクスに戦争を
ふっかけた。そしてカロンと同じように諸国の制止を受けては止めていた。」

「そうしているうちにニクスは戦争を放棄して中立を宣言した。」

「もちろんこれまでニクスは一度も戦争に乗ったことはないのだが、
諸国の勧めもあり、正式に武力を捨て中立国を宣言したんだ。」

「カロンもヒドラも同じか。」

「おい、口を慎め!」

彼の形相が一変した。

「確かにカロンはこれまで諸国と戦争状態になったことはあるが、、
民間人に手を上げた事は一度もない。」

「俺たちは兵士であっても殺人鬼ではない。」

「それに引き換えヒドラの連中は無抵抗の民間人にも容赦ない。」
「お前がカロン出身でないにしろカロンとヒドラを一緒にされるのは許せない。」

「すまない、俺はよく事情が判ってなかった。」
「撤回する。すまない。」

「いや・・・俺の方こそ口が過ぎた。」

彼は笑っていた。
彼は兵だ、愛国心が強いのだろう。

「今回の原因は何だったんだ。」

俺はもう一度聞いた。

「ニクスが武力を完全に放棄したのを契機に、ヒドラが本格的にニクスへの
進行を始めたんだ。今回ばかりは諸国の制止を聞いてない。
どうやら本気で侵略するつもりだろう。」

「2国の争いに何故カロンが加わった?」

「ニクスに対してこれまで幾度かカロンも進行したことがあると言ったろう。」

「あぁ、でもその都度諸国から制止を受けたんだろう。」

「そこで罪滅ぼしというか、まぁこれまでのお詫びということだな。」
「カロンはニクスに対して防衛を約束したんだ。」

「それでヒドラの侵略でカロンが動いている訳か。」

「そういう訳だ。」

「防衛と言っても兵も必要だし物資も必要だろう。」
「そこまでカロンはニクスの面倒をみるのか。」

「実は同盟を結んだ時に、カロンはニクスの鉱山での採掘を見返りに
求めているんだ。もちろんニクスは一切の援助もしないので勝手に
やってくれって感じだ。放牧の民と言うのは実に欲がないというか。
神に一番近い民族なのかもしれないな。」

「で、ここはどこだ。」

「1ヶ月前まではニクス。少し前はヒドラの占領地。」
「今は我が軍がヒドラから奪還した占領区だ。」
「敵さんは随分と引いたので、この辺りは安全という訳だ。」

「そうだったのか。」
「ところで・・・・。」

俺は少し言葉に詰まっていた。
彼はそれを悟ったのだろう。

「俺か?まさか仲間の名前を忘れたとは言わせないぞ。」

「・・・・・・。」

「おいおいトライオード、頼むぜ。それはないだろう。」

「すまない。馴れない戦場で俺もどうかしているんだ。」

「そうか。そりゃそうかも知れないな。お前は元々は兵じゃないしな。」
「俺の名はジョンだ。よろしくな。」

「犬みたいな名前だな。」

「お前、味方じゃなかったらぶっ殺すところだぞ。」

ジョンは笑ってはいたが、その笑みには少々引き攣っていたように見える。

「口が悪いのだけは変わらないな。」

そう言うとジョンはまた笑っていた。

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