・Requiem~a novelette~

第35話 小さな希望

2014/11/08

町の中は思ったより広かった。

幾百・・・いや幾千ものテントが張られていた。

「この中から探すのか・・・。」

俺は軽い絶望すら感じた。

テントの中はパニックになっていた。

それはそうだろう。

カロンの軍でも、ヒドラの軍でも、
もちろん軍を持たないニクスでもない。

どこの軍かも判らない兵隊が夜に奇襲してきたのだ。

ニクスの捕虜達がパニックになるのは無理もない。

ヒドラの兵は正門に集中こそしてはいるが、
所々にその姿を見ることができる。

散って行った解放軍の姿も見ることができた。

交戦している兵も見える。

そんな中、俺は彼女を探して町を走った。

どれくらいの時間が経ったのか判らない。

あちこちに解放軍の兵士であろう死体が見え始めるようになった。

「時間がない、急がなければ。」

俺は往き交う人々のなかから彼女を探そうと必死だった。

そこに解放軍の兵士がいた。

俺は声を掛けた。

「戦況はどうなんだ。」

「ああ、詳しくは判らないが何分多勢に無勢だ。」

「良く無いことだけは判っている。」

「正門近くに行ってきたがレイモンド隊は劣勢だ。」

「残された時間はあまりない。」

「急いで捕虜を誘導するんだ。」

俺は頷いた。

向こうでは解放軍の兵が小さく叫んでいる。

「俺達は元カロン軍の解放軍だ!」

「ニクスの民を助けに来た!」

「町の裏側へ急げ!」

「そこに仲間が待っている!」

そう言って捕虜を誘導している。

俺も別の場所で捕虜の誘導を開始した。

「安心しろ俺達は解放軍だ!」

「町の裏手へ急げ!」

「走れ!」

そう声を掛けながら探し続けていた。

「走れ!」

「町の裏側だ!」

そう叫び続けながら。

「誰だ!」

そう聞こえた次の瞬間。

ヒドラの兵が俺を撃ってきた。

俺は近くのテントの中に隠れた。

テントには俺を探しているヒドラ兵の影が映っている。

俺を探しているのだろう。

辺りをキョロキョロしながらゆっくと移動している。

次の瞬間だった。

パァン!という銃声の後、ヒドラの兵がテントに倒れた。

誰かが俺の隠れているテントに入ってきた。

アベルだった。

「トライオード、大丈夫か、まだ見つからないのか。」

「ああ、こんなに大勢いる中では思っていたより容易くはないな。」

「それよりアベル、血が出ているぞ、撃たれているじゃないか。」

「・・・?、本当だ。気付かなかったな。」

「お前はどこまで幸せな奴なんだ。」

「ああ、俺は今とても幸せだ。」

アベルが笑った。

「軍人というやつは理解に苦しむ。」

そう言いながら、服を裂いてアベルに止血した。

「すまないな、トライオード。」

「アベル、俺はもう行くよ。」

そう言って立ち上がろうとした時だった。

・・・テントにヒドラの兵が入ってきた。

アベルは銃を構えた。

すると、どうしたというのだ。

ヒドラの兵は構えていた銃を下に落とした。

「撃つな。」

「俺はお前達に危害を加えるつもりはない。」

そういうと、両手を頭に組んだ。

「レイモンド隊から伝言がある。」

「どういうことだ。」

「俺も同士だ。」

俺達は理解した。

彼は俺達に味方しているスパイだ。

「町の正門近くのテントでトライオードという男を探している女がいた。」

「その女は俺達が元カロン国の兵であることを知ると、
この解放軍の中にトライオードという軍医はいないかと尋ねてきた。」

「レイモンド隊の兵はトライオードという兵に面識はないが、
町の裏側の隊に軍医がいることを伝えて、そこに向かへと言った。」

「俺はそのことをクレイグやアベルに伝えるよう言われてきた。」

「だから撃つな!」

「誰に言われてきた。」

アベルが聞いた。
アベルは完全には信用していない様子だった。

「レイモンド隊のマドックだ。」

それを聞いてアベルは銃を下ろした。

「そうか、銃を向けて悪かった。」

「ここに居るのがそのトライオード軍医だ。」

「お前は確かに伝言を伝えた。」

「解放に向けて役目を続けてくれ。」

アベルがそう言うと男は何も言わずにテントを出て行った。

「良かったな、トライオード。」

「彼女はまだ生きているようだ。」

「だが先の事は判らない。」

「レイモンド隊に町の裏側に行くように言われて向かっているハズだ。」

「お前は町の裏側へ戻れ。」

「アベル、お前はどうするんだ。」

「町の裏側に居た捕虜は既に町を出た頃だろう。」

「町の正門付近の捕虜は戦火で町の中央に移動しているハズだ。」」

「俺はそこで町の裏側に行くように捕虜に伝える。」

「そうか、わかった。」

「ではまた会おう。」

そういった俺にアベルは何も言わずにテントを出て行った。

これが最後の別れになるのか。

アベルの言葉を思い出した。

『戦場に感傷は要らない。』

俺は町の裏側に向かって走りだした。

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