・Requiem~a novelette~

第11話 勝者と敗者

2014/11/08

あれからどれくらいの刻が過ぎたのだろうか。

ヒドラの偵察隊キャンプのアタックからだ。

俺の名はトライオード。
カロン国の雇われ軍医だ。

カロン、ニクス、ヒドラの争いは今も続いている。

ヒドラの若き指導者は力を付けた。
ニクスの1/3を占領区域としている。

1/3といってもニクスの山脈を除けば、
凡そ国の半分を制圧したことになる。

カロンは今でもニクスと同盟関係にある。
そしてニクスはこの侵略に何の抵抗もしていない。

放牧を糧とする民は軍事を持たない。

誰かが守らなければならないのだ。(か。)

煙草に火を付けて辺りを見渡す。

綺麗な空だ。
風がとても心地良い。
いくつもの雲が形を変えながら流れている。

「どこかで見た景色だな。」

思い出した。

最後の晩餐の日。
あの日見た景色と似ている。

あの日も今日と同じように
静かな陽だまりの中に俺はいた。

仲間と共に。

「先生!」

誰かが俺を読んでいる。

「先生ってば!」

「ああ。」

「これ見て下さい。」

「何だ?」

彼女は黄色い小さな野草を差し出した。

「で、何か用か。」

「うう~ん。」

何か困った顔をしている。

面倒だ。
何故俺の周りにはこんな奴ばかりが集まるのか。
そんなことを考えていた。

「これを見て何も思わないのですか?」

「ただの草だ。」

「うう~ん。」

彼女はまた困った顔をしている。

「これ、何ていう花か知っています?」

「何ていう[草]かの間違いじゃないのか?」

「うう~ん。」

面倒な奴だ。
不毛なやり取りが続くだけだ。

「これ、何ていう[草]か知ってます?」

別に俺は言い直せと言ったわけじゃない。

「知らん。」

「教えてあげましょうか?」

彼女はニコニコしている。
俺は無言のままでいた。

「私が教えてあげましょうか?」

「じゃ・・・」

邪魔だと言いかけた時、
彼女が答えを切り出した。

「タンポポっていうんですよ、この花。」

「どうでもいい。」

「ホントに~。」

相変わらず彼女はニコニコしている。

「トライオード先生はこの花を知らないの?」

「だから知らないって言っているじゃないか!」
「さっきからいったい何なんだ!」
「こんな不毛な会話を続けて何になる!」

「俺に構うな!!」

俺としたことがつまらないことで怒鳴ってしまった。
まったくトライオードとはよく言ったものだ。

俺にこのあだ名を・・・
この名前を付けた奴を褒めてやりたい。

「そう怒らないで話を聞いて。」

俺の同意もなく彼女は話を続けた。

「この花はタンポポっていうの。」

「さっき聞いた。」

「この花の葉にはある特定のウイルスに対する抑制力があるのよ。」
「それに根の部分はお腹の具合が悪いときに煎じて飲むと良く効くの。」

「それにね、コーイーって知ってる?」

・・・何故か懐かしい言葉に聞こえる。

「知らないでしょ?」
「いつもボ~っとしている先生は知らないでしょ?」

ひとこと多いうえに若干の悪意を感じる。

「コーイーってのはね、濃い茶色の飲みものなの。」
「この花の根っこのアクを抜いてお日様で干すの。
「それを煎じてお茶するの。」

「二日酔いにも効くんだって。」

「私って物知りでしょ~。」

彼女は得意げに俺を見てニコニコと笑っている。

「・・・・・・。」

俺は言おうか言うまいか迷った。
ここで俺が何も言わなければこの会話は終わるだろう。

そうしたい。

だが俺の性格が口を開かせた。

「それはコーイーではなく、コーヒーだ。」

彼女は面を食らった様子である。
先程までの勝ち誇った態度から一変して肩を落とした。

判りやすい奴だ。

「そ~なの。コーヒーっていうの・・・。」

彼女はしょんぼりしている。
少し気の毒に思えてきた。

「ああ、だが名前は知っているがその草の効果は知らなかった。」
「何かの役に立つかも知れない、礼を言うよ。」

「やった~!勝った~!」

彼女は飛び跳ねて喜んでいる。
喜怒哀楽のうち彼女は[喜]と[楽]だけで生きているように見える。

幸せな奴だ。

それにこの会話のどこに勝ち負けが存在する。

勝ち負けなんてもうたくさんだ。

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