・Requiem~a novelette~

第1話 ベースキャンプの夜

2014/11/08

「何やってんだ馬鹿!」

それは唐突に聞こえてきた。

「起きろ!トライオード!」

トライオード?
俺のことか?

朦朧としている意識が目覚め始めると
段々と状況が咀嚼できるようになってきた。

ここは戦場だ。

「動け!」

声が再び俺を窘める。

言いようの無い身の危険と恐怖を感じ、
仲間の進む方向へと必死で走った。

よく聞けば周囲のあちこちで銃声が飛び交っている。

そして気がつけば俺も銃を撃っている。

俺は何に向かって撃っているんだ?

標的となる対象が頭の中に浮かんでこない。
このまま撃ち続ければ「仲間」を撃ちかねない。

誰が敵で誰が味方か判らない。

撃つのを止めて必死に走った。
そういえば前を走っている奴は本当に味方か?

敵ならとっくに俺は撃たれているか。
そう考えると妙に安心した。

どれくらい走っただろう。
走っては休み、また走っては休み。

既に日は暮れ、聞き覚えの無い動物の声だけが聞こえてくる。

それでもまだ俺達は走っていた。

やがて山の中に僅かな灯りが見え始めた。
どうやらあそこに向かって走っているようだ。

そこは野営のベースキャンプだった。

様々な人種が入り混じっているが、話している言語は同じように聞こえる。
ベースキャンプというよりは混沌とした小さなキャンプといった方がいいか。

誰かが近寄って話しかけてくる。

「どうした、トライオード。いつものお前らしくない。」
「そろそろ疲れて死にたくなってきたか。」

彼はそういうと薄汚れた泥だらけのコップを差し出してきた。

彼は多分味方だろう。
そう思うと受け取ったコップの液体を俺は一気に喉の奥に流し込んだ。

酒だと思うが今まで飲んだことがない味だ。

それでも乾いた喉は何の躊躇いもなくそれを受け入れた。

「いい飲みっぷりだ。大丈夫そうだな。」

彼は笑いながらそう言うとどこかに行ってしまった。

そこで俺は始めて冷静になった。そして再び混乱した。

聴いたことの無い言語なのだ。

始めて聴く言語の筈であるが話を理解できているのだ。
そして驚いたことに俺もその言語で話している。

「どうなっている?」

声に出すとやはり知らない言語で俺は話している。

これは夢なのか?

しばらく考えてみたが夢にしては鮮明すぎる。

視界のディティール、匂い、音。
そして腕の産毛に感じる風の動き。

そのどれもが夢にしては鮮明すぎるのだ。

また誰かが近づいてくる。

「お前、今日は何か変だぞ。明日は休暇だしゆっくり休め。」

そう言うと彼もまた俺の横で眠りについた。

いったいこれは何なんだ。

俺は何者だ。

どうして俺はここにいる。

頭の中で質問を繰り返してみるが答えは返ってこない。

さっきの酒のせいだろうか頭はまだ朦朧としている。

視界がぼんやりとそして狭くなってきた。
周囲の声は聞こえるが何を言っているのか判らない。

酷く疲れた。

明日考えればいい。
今日はもう眠ろう。

・・・明日は来るのか?

そう考えると何故か笑みがこぼれてしまった。

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