第24話 二人の大佐

俺は側近として奴の少し後ろに立っている。

断ればニクスの村がまた一つ消えることになる。

俺は奴の側近になることを自ら選んだ。

そして俺は奴の後ろにいる。

殺そうと思えばいつでも殺れる距離だ。

でも今はまだ奴を殺すわけにはいかない。

何故、カロンはヒドラを手を組んだ。

それを知るまでは。

そして奴のこの宮殿での生活が数ヶ月も続いている。

「トライオード。」

「はい。」

奴が俺を呼び、俺が答える。

「これから少しここを離れて遠征に出る。」
「私が怪我をしたときの為に、手当の準備をして部屋で待ちなさい。」

「はい。」

俺は小さく返事をすると部屋に戻って支度を始めた。

コン、コン

部屋をノックする音が聞こえた。

「誰だ。」

「オスニエルです。」

部屋の外で声がする。

オスニエルは奴の執事だ。
いったい何の用だというのだ。

「入ってくれ。」

俺はそう答えた。

「トライオード様、御支度の準備が出来ましたか。」

「ああ、今終わったところだ。」

「ではわたくしが車に積んでおきましょう。」

「この大きなバッグで良いのですか?」

「ああそうだ。」

「トライオード様も色々と大変でしょうが、
御国に使える為に頑張ってください。」

「国民は軍人の皆さまを自らの誇りの様に思っております。」

「国民の心を踏みにじるような行動は断じていけませぬぞ。」

そう俺に告げるとオスニエルはバッグを抱えて出て行った。

このオスニエルという男が俺には解らない。

この男の言ったことに間違いはない。

国の為に命を捧げる兵士を尊敬し、誇りに思っている国民。
その国民の気持ちに答えようと襟を正す軍人。

オスニエルの言う事は間違っていない。

間違ってはいないが間違っているのだ。

彼は奴の執事で側近の一人だ。

彼は紳士であり、感情を表に出さない。
彼の話すことは全て正しいように聞こえる。

彼は誰に対してもいつも丁寧だ。
宮殿のシェフはもとよりその調理人に対しても。

部屋の掃除をするもの、運転手の兵。
自分より下に位置する全ての者を公平に扱っている。

そして彼は教養もあり、英知に富んでいる。

彼のことを本物の紳士というのだろう。

そんな彼が御国のためと奴のいうことを利いている。

彼は全て知って全て納得してそれを行なっているのだろうか。

俺にはオスニエルが全く理解できない。

彼ほどの男が何故?

そんな時だった。
オスニエルが戻ってきた。

「トライオード様、オスニエルです。失礼します。」

彼はそう言うと部屋に入ってきた。

「トライオード様、クレイグ様がお呼びです。」

「わかった、直ぐ行くと伝えてくれ。」

「かしこまりました。」

そういうと彼は部屋を出て行った。

出発の時のようだ。

俺は奴の車を運転して、奴の言う方向に向かう。

奴は俺の後ろ。

今度は奴が俺を殺そうと思えばいつでも殺せる。

「トライオード、宮殿での生活はどうだ。」

・・・・?

俺は少し戸惑った。
気のせいか宮殿での口調と少し違って聞こえたからだ。

その時、車が石を轢いて少し揺れた。

少し時間を置いて奴は言った。

「気をつけろ。」

俺は無言でいた。

「もうすぐ目的の場所に着く。」
「別隊の大佐と会議があるので、お前は別室で待機しておけ。」

「はい。」

また車が揺れた。

「何度も言わすな、気をつけろ。」

「申し訳ありません。」

何かこの会話に違和感を覚えたが深くは考えなかった。

程なく目的地に到着した。

ニクスの平原に不似合いな立派な建物だ。

中から誰か出てきた。

兵が車の俺たちに敬礼した。

「お待ちしておりました、クレイグ大佐!」

彼はそういうと俺達の車を誘導した。

車を降りるように目で合図され俺達は車を降りる。

「こちらです!」

俺は彼と奴の後ろを歩いた。

向こうから誰か歩いてくる。
立派な服を着た軍人だ。

それだけでも彼の階級の高さが判る。

「道中疲れたろう、クレイグ大佐。」

彼は奴ととても親しいようだ。

「申し訳ないが、これからすぐに話をしたい。」
「荷物を置いたら大広間に来てくれ。」

「ああ、わかった。」

奴が答える。

「ところでこちらの方とは初めて会うのかな?」

彼は俺の前まで足を進める。

「私はアレクシス大佐だ。宜しく頼む。」

そういうと彼は手袋を外して手を差し出した。

私はその手に自分の手を合わせる。

「トライオードです。」

「おお、君がトライオードか。」

「俺の・・・」

アクレシス大佐の紳士な対応に俺は言葉を選んだ。

「私のことをご存知で?」

「やめろ、トライオード。」
「君が軽々しく話して良い相手ではない。」

奴が言った。

「そう言うなクレイグ大佐。」
「ここでは堅苦しいことはなしだ。」

「君の事は前にクレイグ大佐から聞いたことがある。」

大佐は少し間を置いた。

「敵の兵も治療する御人好しの軍医がいるってな。」

彼は突然と笑い出した。
しかし嫌味な笑いかたではない。

俺のことが心底可笑しいようだ。

「その後行方不明になっていると聞いていたが。」
「そうか、君がドクター・トライオード君か」

「見つかって良かったな、クレイグ大佐」

見つかって良かった?
俺がか?
奴は俺のことを嫌っている。
いや、殺したいと思っているはずだ。

なら何故、俺を側近にした?

理解出来ないことが続いている。

カロンは何故、ニクスを捨てヒドラと同盟した?
奴は俺をいったいどうしたいと考えている?

考えれば考える程、俺の頭は混乱していく。

俺はもう・・・何もかもに疲れた。



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