・Requiem~a novelette~

第33話 漆黒の行進

2014/11/08

遠くで刻を告げる教会の鐘が鳴った。

いよいよ出発の時がきた。

捕虜の町に向けて俺達は足を進めた。

その頃、大きな満月は雲に隠れた。

「まるで俺達の味方をしてくれているようだ。」

「時代が俺達の様子を伺っている様だな。」

「このまま味方であってくれると良いが。」

アベルはそう言って夜空を見上げている。

漆黒の行進は続いた。

山岳の麓に小さな灯が見える。

「あれが捕虜の町だ。」

「いいか、トライオード。良く聞け。」

「今度は『あの夜』と逆だ。」

「あの中に俺達のスパイがいる。」

「町は壁と鉄線で囲まれてはいるが、
檻のような中に捕虜がいる訳ではない。」

「態々、捕虜の為に檻を作らなかったようだ。」

「捕虜たちはテントで暮らしている。」

「まず、レイモンド隊が正面から
捕虜の町を警護するヒドラ兵に攻撃を仕掛ける。」

「その隙に俺の隊は外壁つたいに町の裏側まで移動する。」

「そこで壁を一部撤去する作業に入る。」

「戦火の音で俺達の行動はヒドラの兵には聞こえないハズだ。」

「ヒドラの兵が町の入り口に集まった頃、
レイモンド隊から俺達の隊にサインがある。」

「その合図を待って俺達は町に侵入する。」

「そして捕虜たちを町の裏側に誘導する。」

「いいか、兵にも捕虜にも死人が大勢出るだろう。」

「しかしこれは『定め』だ。」

「時が・・・時代が決めた運命だ。」

「迷うな。」

「一人でも多く生きている捕虜を誘導しろ。」

「お前は医者だ。」

「怪我人をほっておくことに同意は出来ないだろう。」

「しかしだ。」

「俺達は良い。」

「捕虜の、ニクスの民の犠牲は最小限に留めなければならない。」

「生きてここから出してやれ。」

「表はレイモンド隊が。」

「中ではクレイグと俺の隊が。」

「退路ではアレクシスの隊が。」

「それぞれ敵兵を迎え撃つ。」

「お前たちが目指すのは東の国境だ。」

「亡命の用意はある。」

「そこまで生きて走れ。」

「彼女とともに。」

「国境付近にヒドラの隊はいない。」

「もしいるとしたら、ここから出てきた兵だ。」

「俺達は出来る限り耐える。」

「しかし耐えるにも限界があるだろう。」

「時間はなるべく稼ぐ。」

「この命にかえて。」

「夜明けを告げる鐘がなる前に。」

「国境に行け。」

「そして幸せに暮らせ。」

そんな時だった、雲は晴れ月夜に照らされた。

俺達は低く、そして静かに岩場に身を潜める。

レイモンドと思わしき男の姿が見える。

『待て』の合図だ。

どうやら月が隠れるのを待つようだ。

俺達は時を待つ。

しかしそうグズグズはしていられない。

解放軍に焦りの色が見える。

レイモンドの指示は未だ『待て』のままだ。

しばらくすると捕虜の町で灯りが揺れた。

何かのサインのようだ。

「どうやら今は動く時では無いらしい。」

「あのサインは兵が散らばっているというサインだ。」

「兵が散らばっていると俺の隊の行動がバレてしまう。」

「クソ!」

「時代まで敵となったか。」

アベルは焦っていた。

重く苦しい空気が漂っている。

その時だった、町からのサインに変化があった。

「『準備』のサインだ。」

「そろそろだな。」

「みんな覚悟を決めとけよ。」

アベルは隊に小さく言った。。

レイモンドのサインも『準備』に変わった。

緊張が空気をいっそう重く苦しいものに変えていく。

こちらに一人近づいてくる。

偵察隊が帰ってきたようだ。

レイモンドに報告しているようだ。

次にアレクシス。

そしてクレイグの所へやってきた。

「町のヒドラ兵はこちらが想像していた数より随分と多いようです。」

「計画が漏れたとは思えません。」

「私達の偵察不足でした。」

「申し訳ありません。」

クレイグは偵察兵に言った。

「気にするな、構わないさ。」

「向こうの兵が多かろうと少なかろうと俺達の兵の数は同じだ。」

「これはどうにもならない問題だ。」

「お前が気にすることではない。」

アベルが言った。

「あまり時間稼ぎが出来ないようだな。」

「トラオード、すまない。」

「アベル、お前のせいじゃない。」

「俺達の運命だ。」

「ああ、ありがとうよ。」

クレイグが小さく「これ以上は待てない。」。

そう言った瞬間だった。

レイモンドの合図が『突入』に変わった。

レイモンド隊は捕虜の町に移動し始めた。

アレクシス隊、クレイグ隊もこれに続いた。

「いよいよだな」

「ああ、いよいよだ。」

アベルは笑った。

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