・Requiem~a novelette~

第24話 二人の大佐

2014/11/08

俺は側近として奴の少し後ろに立っている。

断ればニクスの村がまた一つ消えることになる。

俺は奴の側近になることを自ら選んだ。

そして俺は奴の後ろにいる。

殺そうと思えばいつでも殺れる距離だ。

でも今はまだ奴を殺すわけにはいかない。

何故、カロンはヒドラを手を組んだ。

それを知るまでは。

そして奴のこの宮殿での生活が数ヶ月も続いている。

「トライオード。」

「はい。」

奴が俺を呼び、俺が答える。

「これから少しここを離れて遠征に出る。」
「私が怪我をしたときの為に、手当の準備をして部屋で待ちなさい。」

「はい。」

俺は小さく返事をすると部屋に戻って支度を始めた。

コン、コン

部屋をノックする音が聞こえた。

「誰だ。」

「オスニエルです。」

部屋の外で声がする。

オスニエルは奴の執事だ。
いったい何の用だというのだ。

「入ってくれ。」

俺はそう答えた。

「トライオード様、御支度の準備が出来ましたか。」

「ああ、今終わったところだ。」

「ではわたくしが車に積んでおきましょう。」

「この大きなバッグで良いのですか?」

「ああそうだ。」

「トライオード様も色々と大変でしょうが、
御国に使える為に頑張ってください。」

「国民は軍人の皆さまを自らの誇りの様に思っております。」

「国民の心を踏みにじるような行動は断じていけませぬぞ。」

そう俺に告げるとオスニエルはバッグを抱えて出て行った。

このオスニエルという男が俺には解らない。

この男の言ったことに間違いはない。

国の為に命を捧げる兵士を尊敬し、誇りに思っている国民。
その国民の気持ちに答えようと襟を正す軍人。

オスニエルの言う事は間違っていない。

間違ってはいないが間違っているのだ。

彼は奴の執事で側近の一人だ。

彼は紳士であり、感情を表に出さない。
彼の話すことは全て正しいように聞こえる。

彼は誰に対してもいつも丁寧だ。
宮殿のシェフはもとよりその調理人に対しても。

部屋の掃除をするもの、運転手の兵。
自分より下に位置する全ての者を公平に扱っている。

そして彼は教養もあり、英知に富んでいる。

彼のことを本物の紳士というのだろう。

そんな彼が御国のためと奴のいうことを利いている。

彼は全て知って全て納得してそれを行なっているのだろうか。

俺にはオスニエルが全く理解できない。

彼ほどの男が何故?

そんな時だった。
オスニエルが戻ってきた。

「トライオード様、オスニエルです。失礼します。」

彼はそう言うと部屋に入ってきた。

「トライオード様、クレイグ様がお呼びです。」

「わかった、直ぐ行くと伝えてくれ。」

「かしこまりました。」

そういうと彼は部屋を出て行った。

出発の時のようだ。

俺は奴の車を運転して、奴の言う方向に向かう。

奴は俺の後ろ。

今度は奴が俺を殺そうと思えばいつでも殺せる。

「トライオード、宮殿での生活はどうだ。」

・・・・?

俺は少し戸惑った。
気のせいか宮殿での口調と少し違って聞こえたからだ。

その時、車が石を轢いて少し揺れた。

少し時間を置いて奴は言った。

「気をつけろ。」

俺は無言でいた。

「もうすぐ目的の場所に着く。」
「別隊の大佐と会議があるので、お前は別室で待機しておけ。」

「はい。」

また車が揺れた。

「何度も言わすな、気をつけろ。」

「申し訳ありません。」

何かこの会話に違和感を覚えたが深くは考えなかった。

程なく目的地に到着した。

ニクスの平原に不似合いな立派な建物だ。

中から誰か出てきた。

兵が車の俺たちに敬礼した。

「お待ちしておりました、クレイグ大佐!」

彼はそういうと俺達の車を誘導した。

車を降りるように目で合図され俺達は車を降りる。

「こちらです!」

俺は彼と奴の後ろを歩いた。

向こうから誰か歩いてくる。
立派な服を着た軍人だ。

それだけでも彼の階級の高さが判る。

「道中疲れたろう、クレイグ大佐。」

彼は奴ととても親しいようだ。

「申し訳ないが、これからすぐに話をしたい。」
「荷物を置いたら大広間に来てくれ。」

「ああ、わかった。」

奴が答える。

「ところでこちらの方とは初めて会うのかな?」

彼は俺の前まで足を進める。

「私はアレクシス大佐だ。宜しく頼む。」

そういうと彼は手袋を外して手を差し出した。

私はその手に自分の手を合わせる。

「トライオードです。」

「おお、君がトライオードか。」

「俺の・・・」

アクレシス大佐の紳士な対応に俺は言葉を選んだ。

「私のことをご存知で?」

「やめろ、トライオード。」
「君が軽々しく話して良い相手ではない。」

奴が言った。

「そう言うなクレイグ大佐。」
「ここでは堅苦しいことはなしだ。」

「君の事は前にクレイグ大佐から聞いたことがある。」

大佐は少し間を置いた。

「敵の兵も治療する御人好しの軍医がいるってな。」

彼は突然と笑い出した。
しかし嫌味な笑いかたではない。

俺のことが心底可笑しいようだ。

「その後行方不明になっていると聞いていたが。」
「そうか、君がドクター・トライオード君か」

「見つかって良かったな、クレイグ大佐」

見つかって良かった?
俺がか?
奴は俺のことを嫌っている。
いや、殺したいと思っているはずだ。

なら何故、俺を側近にした?

理解出来ないことが続いている。

カロンは何故、ニクスを捨てヒドラと同盟した?
奴は俺をいったいどうしたいと考えている?

考えれば考える程、俺の頭は混乱していく。

俺はもう・・・何もかもに疲れた。

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