・Requiem~a novelette~

第20話 それぞれの道

2014/11/08

俺はロゼッタと彼女の家にいる。

テーブルには温かいたんぽぽのコーヒーが入れてある。

「先生・・・。」

「もう何も君は考えるな。」

「これは俺の問題だ。」

「先生だけの問題じゃないわ!」

「この村に医者は必要なの!」

「それに・・・。」

そう言うと彼女は口をつむってしまった。

彼女は小さく泣いている。

ここ最近、俺は彼女を泣かせてばかりいる。
俺が立ち去った後は笑顔でその人生を歩んでくれ。

それが俺の一番の願いだ。

「ロゼッタ・・・。」

「ありがとう。」
「君は命の恩人だ。」

「瀕死の俺を助けてくれた。」

「どれだけ感謝しても足りないくらいだ。」

「村の医者は大丈夫だ。」
「君は良い医者になるよ。」
「その点は安心している。」

「ただ・・・。」

「ただ・・?」

「いや何でもない。」

嫌な予感が頭をかすめたが、俺はそれを無理やり押し込んだ。

「ただ、なんなのよ・・・。」

「言葉のあやだ、気にしないでくれ。」

「俺はここに来て幸せだった。」

「だった?」

「ああ、とても幸せだった。」

「白い白衣を着て君と仕事が出来たことを誇りに思う。」

「それだ・・・け?」

「いや、言いたいことは山ほどあるが・・・。」

「言葉にならないんだ。」

「すまない、ロゼッタ。」

「いいの、謝らないで先生。」

「私も幸せだったわ。」

その表情は何かをふっ切ったように見えた。

「先生、ありがとう。」

「私は医者としてこの村で生きて行くわ。」

「それが先生の望みなんでしょ?」

彼女は全てを悟っている。

「私は先生の弟子よ、心配しないで。」

「ありがとう。」

「先生、お願いがあるの。」

「なんだ。」

「今日はここに泊っていくでしょ。」

確かに投降期日は明日だ。

「そうして下さい、先生。」

「わかった、そうするよ。」

「それと・・・。」

「まだなにかあるのか?」

「そんな言い方しないで下さい・・・。」

「すまない・・・。」

「投降した後、先生はどうなるんですか?」

考えてもみなかった。

「そうだな。」

「前に話したとおり、俺は戦場から逃げ出している。」

「それは・・・。」

「いや、いいんだ。」

「軍人のルールなんだ。」

投降したら俺はどうなる?
普通に考えたら銃殺刑だ。

それ以外は考えられない。

カロンも一皮剥けばヒドラと同じだ。

俺は銃殺されるのか。

やっと仲間のところに行けるな。

やっとエノーラに謝ることができる。

そんな俺の表情を察したのか彼女が言った。

「死のうなんて考えていないですよね?」

「もう自分を許してあげてください。」

死ぬも死なないもカロンしだいだ。
だがそんな事は彼女に言えない。

「ああ、わかっている。」

「投降したら・・・俺は軍医に戻されるだろうな。」

「もし君のご両親に会ったら、君は元気でやっていると伝えておくよ。」

「お願いしますね、先生。」

彼女は知っている。
ご両親は既に死んでいることを。

知っていてそのような返事をしているのだ。

そんな彼女が愛おしく思える。

「先生・・・。」

「なんだ。」

「ありがとう。」

「俺もだロゼッタ。ありがとう。」
「村の人達に宜しく伝えておいてくれ。」

「わかりました。」

二人はそれぞれの部屋で夜を迎えた。

どれくらいの刻が過ぎただろうか。

俺は彼女の部屋に入った。

始めて入る彼女の部屋だ。

ロゼッタはもう寝ているようだ。

その枕は大きく濡れている。

「ありがとうロゼッタ。」

「俺はもう行くよ。」

そう言うと俺は彼女に唇を交わした。

そう言えば初めて会った時は君からだったな。

最後は俺からだ。

「さようなら、ロゼッタ。」
「幸せに暮らしてくれ。」

そう言うと俺は彼女の部屋を出た。

部屋の中から彼女の声が聞こえてきた。

『ありがとう、先生。』

ありがとうロゼッタ。

俺は草原の小さな家を出て隣村の市場を目指した。

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