・Requiem~a novelette~

第18話 三文芝居

2014/11/08

「先生!あいつらだ!」

ドアに向かう俺をロゼッタが行く手を阻んで制止した。

彼女の表情はいつになく厳しい。

ロゼッタは先客の男に目で合図を送った。

それを見た男は俺の所にやってきて、
俺の手を掴むと手の平をゆっくりと上下した。

どうやら俺に『しゃがめ』と言っているようだ。

俺は男に促され、腰を落としたまま腕を引っ張られて2階へ向かった。

それを確認したロゼッタは一呼吸おいて家のドアを開けた。

「だぁれ~、こんな朝早くからぁ。」

ロゼッタのとぼけた声が聞こえてきた。

「あんた達、この辺では見ない顔だねぇ。」

「俺たちはカロンの国から来た。」
「この村にいる腕利きの医者を探している。」

「探してどうするんだい?」

彼女の口調が変わっている。

「我々はここニクス国をヒドラの侵略から守っている。」

「知ってるよ。ありがたい話だねぇ。」
「村のみんなも恩に着てるよ。」
「村の人が言ってたよ。」
「カロンの方に足を向けて寝ちゃいけねえって。」

「ホントに恩に着てるんだから。」

口調が無茶苦茶だ。

「もう一度聞く。」
「この家に医者は居ないか。」

「正直に話した方が身のためだ。」

兵たちは彼女に詰め寄る。

「居るよ。」

彼女の意外な言葉に俺は驚いた。

「いや、正確には居た・・・だねぇ。」

「あたいが二十歳の時にあんた達が連れて行ったよ。」

今度は口調がやさぐれ始めた。

先客の男が小さく言った。

「頑張れロゼッタ。」
「ニクスの誇りを見せてやれ!」

どこか場違いな男だ。

「この家には他に誰が住んでいる?」

「あんた達があたいの両親を連れていってから、
あたいは一人ぼっちだよ。どうしてくれるんだい?」

彼女は更にやさぐれ出した。

「本当にお前が一人で住んでいるのか?」

「何回も言わせるな、そうだよ。」

「では、あれは何だ」

しまった!

兵士たちのいるドアから家の中が見えている。

「なぜ一人で住んでいるのにテーブルにカップが二つある。」

「答えろ!」

兵士たちは彼女に詰め寄った。

「昨夜の片づけが残っているんだ。」
「あたいは無精もんでね。」

「2つとも湯気が立っているのにか?」

彼女は言葉に詰まった。

「中に入らせて貰う。」
「お前の同意は必要ない。」

カチャ!

銃の音だ。
たぶんその銃は彼女に向けられている。

「おい!中を調べろ。」

上官の声だろう。
連れの兵に指示を出している。

兵士の足音がテーブルのある位置で止まった。

「やはり他に誰か居るようです!」

「私に嘘をついているな。」

「お前はニクスの人間だろう。」
「カロンの兵に嘘が言える立場か!」

「自分の置かれている立場をわきまえろ!」

ピシャン!

バタッ!!

下で彼女が倒れた音がした。

もう我慢ならない。
これ以上は俺が許さない。

そう思って立ちあがったその時だ。

先客の男が上着とズボンを脱いで立ちあがった。

「こんな時に何をしている!」

俺は小さく叫んだ。

そんなことなどお構いなしに男は下に降りて行った。

「おい!ロゼッタ!」
「何を朝から騒いでいるんだ!」

「昨日は遅かったんだ、もう少しゆっくり寝かせて・・。」

「おや?あんた達は昨日の軍人さんか?」

「お前は昨日の農夫だな。」
「お前の家は違うだろう。」
「こんな所でなにしてる!」

「こんな所で何してる?」
「おいおい、軍人さんよぉ。」
「野暮な事は聞いちゃいけねえよ。」

先客の男の声が聞こえてくる。

「俺が何しようと勝手だろ?」
「それに裸の男と若い女が早朝に二人でコーヒー飲んでんだ。」

「皆まで言わせるなよ。」

トントン。

軽い足音が聞こえてきた。

ロゼッタがゆっくりと立ち上がったようだ。

彼女の髪は程よく長い。

早朝の急な来客のせいでまだ軽装のままだ。

彼女のことだ。
ここぞとばかりにわざと乱れた格好で立っているに違いない。

「これで判ったかい?」

「あたいはこの男と[寝て]たんだよ。」

「なぜそう言わなかった。」

兵が問い詰める。

「ハァ?なぜそう言わなかったと言ったのかい?」

「女の口から言えるかよ。」
「馬鹿も休み休み言えってんだ。」

彼女が吐き捨てるように言った。

「あんた達があたいを一人にしたんだ。」
「若い女がいつまで一人で帰らぬ両親を待ちゃいいんだい?」

「あたいも生きてかなきゃならないんだよ!」

「金で男と寝て何が悪いってんだ、くそったれ。」

もう無茶苦茶だ。
三文芝居にもなりゃしない。
聞いててハラハラするやら情けなくなってくるやら。

「わかったらもう帰っとくれ。」
「あたいは疲れているんだ。」

トントンと腰のあたりを叩く音がする。
そこまでするか?

「邪魔したな。」

兵はそう言って家から出て行こうとした。

そこに調子に乗った先客の男が兵士に向かってこう叫んだ。

「おい!母ちゃんには内緒にしといてくれよ!」
「頼んだよ!」

兵士たちは何も言わずにこの家から立ち去った。

どうやらこの場は凌いだようだ。

俺は2階の窓から身を屈めて兵士たちの後ろ姿を確認した。

その時だった。

上官と思われる男が後ろを振り返ってこっちを見た。

俺は慌て腰を落とす。

さすがは上官だ。
あなどれない。

彼は後ろを振り返って辺りを見回している様子だ。

俺は腰を落としたままカーテンの隙間からそれを覗いた。

もう夜は明けている。
太陽も登っている。

このカーテンに隠れている俺の影はあの兵達には見えない。

そう思った矢先だ。

上官が俺のいる2階に向かって発砲してきた。

パァン!パァン!パァン!

山に銃声が木霊する。
何発撃ったのか判らなかった。

銃弾が俺の目の前を横切った。

「何すんだい!」

彼女は怒って兵士に怒鳴っている。

「悪く思うな。」
「俺達は2階を確認していない。」
「お前らの状況は察したが、全てを信じた訳ではない。」

「念の為だ。」

「修理代は払わないが悪く思うな。」
「お前の減らず口がもたらした結果だと思え。」

そう言うともう1発こっちに向かって打ってきた。

咄嗟に身を屈めたが遅かった。

「うぐぅ!!」

それは俺の腕に命中した。

「また会おう!」

そう言い残して今度は本当に立ち去った。

また会おう?
どういう意味だ?

俺は思い出した。

あれは声はクレイグ大佐だ。

生きていたのか。

アベルも生きているのか?

大佐は俺の顔を知っている。

もしかしたら俺は大佐に顔を見られたかも知れない。

だから俺に向けて銃を撃った。

そう考えると、言葉の意味と発砲につじつまが合う。

バタバタバタ!

ロゼッタと男が2階に駆け寄ってきた。

「大丈夫、先生?」

「血が出てるじゃない!」
「早くこっちに来て!」

彼女は俺に薬草を塗布した包帯を巻いてくれている。

俺は苦笑いを浮かべた。

「包帯の巻き方も随分と巧くなったな。」
「それにさっきの猿芝居もなかなかのものだったぞ。」

「痛ッ!」

彼女が急に包帯を強く巻いたのだ。

彼女の顔が赤い。

「まるで女トライオードだな。」

俺は笑った。

「痛ッ!」

再び包帯がキツく巻かれた。

「おい、無茶すんな。」

「それと、すまない。助かった。礼を言うよ。」

俺は男に頭を下げた。

「先生、頭を上げてくれよ。」
「俺たちゃまだ先生に何にも返しちゃいねえよ。」

「ロゼッタ、どこも怪我してないか?」
「どこか痛む所はないか?」

「先生、私は大丈夫だから。」

ありがとう。その気持ちだけで俺はもう十分だ。

次の日、村に立て札が立てられていた。

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