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第37話 銃声と雷鳴の中で

ロゼッタと俺は捕虜の群衆に紛れて町の出口を目指していた。

群衆の中での生存率は高い。

何とかこのまま出口まで辿りつかなくては。

その時だった。

町を囲む壁が外側に大きく崩れるように倒れた。

アレクシス達だ。

アレクシス隊が壁を倒したのだ。

これで一気にニクスの捕虜達が町の外に向けて流れ出した。

俺達もその流れに乗った。

同時にアレクシス隊が町の中に入ってきて出口周囲を固めた。

もの凄い勢いで捕虜達が町の外に飛び出し東の方向に走っていく。

俺とロゼッタもようやく町の外に出られた。

そこにはアレクシスがいた。

「トライオード、その娘さんか。君が探していたのは。」

「ああ、俺の大切な・・・。」

「大切な・・・助手だ。」

「素直じゃないな、トライオード。」

「こういう時は素直になるものだよ。」

アレクシスは笑っていた。

「お嬢さん。」

「私はアレクシス。トライオードの友人だ。」

「私達はトライオードに世話になった。」

「どんなに礼を言っても足りないくらいだ。」

「お嬢さん。」

「はい。」

「トライオードはこんな人間だ。」

アクレシスは俺の方をチラッと横目で見た。

「彼は素直じゃない。」

「聞けば口の悪い所もあるらしい。」

「はい。」

ロゼッタは大きな声で返事をした。

「それでも彼は俺達の恩人だ。」

「何があっても宜しく頼む。」

「はい。」

ロゼッタはひと際大きな返事をした。

「愛想を尽かさないでくれよ。」

アレクシスは笑って俺たちにそう言った。

「さあ、行くんだ。」

「長居は無用。」

「別れはもう済んでいるだずだ。」

「行け!トライオード!」

俺はその声に促されその場を去った。

彼女の手をとって。

俺達は山の中腹まで登り、山林に紛れて東の国境を目指した。

山の麓・・・。

捕虜の町には大きな火の手が上がっている。

そしてサイレンがまだ鳴り響いているのも聞こえた。

町の正門で動く人影はもう無い。

レイモンド隊は全滅したのだろうか。

レイモンド・・・そういえば君はあの質問に答えていなかったな。

町の中に設置された捕虜達のテントの多くは焼け落ちていた。

そのせいか町の中でもひと際明るい。

そしてそこにも動く人影はなかった。

クレイグ・・・俺は何も知らず、
お前の心の中の覚悟や苦悩を知らず・・・。

許してくれ、クレイグ。

俺も・・・俺はお前を許している。

それとありがとう、クレイグ。

アベルにも宜しく伝えてくれ。

町の裏手ではまだ人影が蠢いている。

アレクシスの隊だ。

ここから見ても多勢に無勢が確認できる。

その数の差はあまりにも大きい。

そんな時だった。

蠢く人影が一気に東の方角に移動を始めた。

アレクシス隊が突破されたのだ。

アレクシス・・・ありがとう。

俺はロゼッタを連れて走った。

俺は暗い道を彼女の手を握り締めてただひたすらに走った。

思い返せば平和を愛する放牧の民の住む国は
ヒドラによって戦場となった。

そしてカロンでもその悲劇が始まった。

大勢の仲間が死んだ。

幼い頃の夢なかばに倒れた大勢の人達。

敵国の兵といえど人を殺す事に疑問を感じる兵もいたことだろう。

この戦いで多くの人々が死んだ。

「ロゼッタ、大丈夫か?」

「まだ走れるか?」

ロゼッタは息を切らせながら言った。

「私は大丈夫、それより先生・・・。」

「なんだ?」

「血が・・・。」

彼女の指さす先にあったのは私の脚だ。

「どこかで怪我したみたいだな。」

「先生、そこに座って。」

ロゼッタにそう言われ俺はそれに従った。

ロゼッタは自分の服を裂いて俺に止血をしてくれている。

「懐かしいな・・・。」

「えっ?」

「いいや、手当をしている君をみるのが何だか懐かしくてな。」

「そうね。」

彼女は黙々と傷の手当てをしている。

「さあ、できたわよ。」

「すまない、ロゼッタ。」

「銃声も聞こえているみたいだ。」

「ヒドラの捕虜狩が始まったようだな。」

「俺達も先を急ごう。」

「はい。先生。」

俺はロゼッタの手を引き

銃声の鳴り止まぬ闇の中を東に向かって走り出した。

そんな時だった。

急に雲行きが変わり雨が降り出した。

「しめた、この雨で臭いも足音も消える。」

「時代は俺達の味方をしてくれるようだ。」

しばらくすると雷鳴まで響き始めた。

「豪勢だな。」

俺はロゼッタを見て笑った。

「俺達はこのまま走って東の国境に行く。」

「亡命だ。」

「しかし朝になれば敵に見つかってしまう。」

「なんとしても夜明けを告げる鐘の鳴る前に、
国境を超えてその鐘の鳴る教会まで辿り着かなければならない。」

「頑張れるか?」

「ええ、あなたと一緒なら。」

そういうと俺達はまた走り出した。

「待って!」

ロゼッタは急に立ち止った。

「足が・・。」

見るとロゼッタの足は血にまみれていた。

「これは?」

「どうやら走っているうちにあちこちで擦り剥いたみたい。」

「走れるか?」

「ええ。」

走り出したその時だった。

「痛い!」

彼女はうずくまってしまった。

「ここではまずい!」

「頑張れ、ロゼッタ!」

雷鳴が鳴り夜空に閃光が走る。

「あそこだ!」

少し先に壊れかけた古い小さな教会が見えた。

「一先ずあそこで少し休もう、手当もそこでだ。」

「わかったわ。」

ロゼッタは傷ついた足をかばいながら懸命に走った。

「着いたぞ!」

俺達は教会の中に入った。

「ここなら雨もしのげるな。」

「ロゼッタ、足を見せてみろ。」

ロゼッタの足は木の枝や石でかなり傷ついている様子だった。

このままでは感染症の危険性がある。

「ちょっと待ってろ。」

俺はそういうと外に出て雨水で帽子を洗い、
そしてその中に水を溜めた。

「傷口を洗うぞ、少し痛いが我慢しろ。」

「痛ッ!」

「我慢しろと言ったろう。」

「違うわ。先生が荒いのよ。」

「暫く会わないうちに腕が落ちたの?センセイ。」

彼女は痛みに耐えながら笑っていた。

「口が悪いな。」

「先生直伝よ。」

そういってまた笑っていた。

この笑顔をこのまま壊したくはない。

俺は心の中でそう思った。

そんな時だった。

「シッ!誰か近づいてきている。」

俺達は見つかってしまったのか・・・・。

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