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第36話 アベルとの別れ

町の裏手近くでは捕虜達の集団が出来ている。

クレイグ隊が破壊した壁の穴では一度に多くの捕虜は通れない。

3人同時が精々だ。

しかし未だに壁を壊す音が聞こえてくる。

俺達が突入した後はアレクシスの隊が
続けて壁穴を大きくしているのだろう。

レイモンド、アレクシス、クレイグ。

この3人の連携は見事なものだ。

何も見えなくても、何も言わなくても。

離れてさえいても。

それぞれの行動がお互い手に取るように見えているかのようだ。

そしてクレイグとアベル。

最初は仲の悪い二人と思っていた。

だが心の中で二人は強く結ばれていた。

あの時、俺が庇うことも心配する事もなかったのだ。

軍人というものは俺の理解を遥かに超えている。

俺はロゼッタを探しながらニクスの捕虜を誘導してた。

「この人の山で探すのは無理なのか。」

一体この町には何人の捕虜が生活していたのだろう。

テントは数千あるようにも見えた。

外から見るより町の中は広い。

そんな時だった。

正門の方向から爆発のような音が聞こえた。

燃料か何かの容器に引火したのだろう。

それともレイモンド隊の作戦か。

刻々と変化する戦場において何が作戦で何が偶発なのか判らない。

それも含めてあの3人はそれを理解して繋がっているというのか。

そんな事を考えていると正門からまた火の手が上がった。

「・・・・・?」

一瞬ではあったが、後ろを振り返りながらこっちに走ってくる女が見えた。

正門からまた爆発があった。

間隔をおいて次々と何かが爆発しているようだ。

その閃光の度に見えるのだ。

こっちに向かってくる女の姿が。

大勢の中でもはっきり判る。

それは段々と近くなる。

彼女はまだ気づいていない。

爆発はまだ続いている。

いっそう大きな爆発の閃光の中、彼女は俺を見つけたようだった。

後ろを振り返らずに走ってくる。

間違いない。

あれはロゼッタだ。

間違いなくそれはロゼッタの姿だった。

「先生!」

「ロゼッタ!」

二人は再会した。

あれからどれくらいの月日が流れていたのか判らない。

それでもロゼッタはあの時と。

あの時と変わらぬロゼッタであった。

「大丈夫か、ロゼッタ。」

「ええ、私は大丈夫。先生は?」

「俺も今のことろは大丈夫そうだ。」

「町の裏側に出口がある。」

「そこへ急ぐんだ。」

俺はロゼッタの手をとり走りだした。

俺に嫌な記憶が蘇る。

あの夜。ホレスとの最後の夜だ。

俺の腕を掴んで必死に逃げたホルス。

そこに閃光が走った。

何も見えない。

俺は俺を掴んでいたホレスの手の力を感じていたがそこにホレスは居なかった。

ホレスの腕だけが俺を掴んでいた。

あの日の光景が蘇る。

今日はあの時と全てが逆だ。

生きてこの町を出る。

そう誓った俺はロゼッタの手を強く握り足を速めた。

もうすぐそこだ。

出口はすぐそこだ。

もうすぐ、もうすぐそこなんだ。

なのに・・・。

俺達はヒドラの兵に銃を向けられていた。

次の瞬間に銃声が鳴った。

まただ、また全てがスローモーションのようになった。

銃弾が見える。

真っすぐ俺たちに向かっている。

俺の体は硬く固まったように動くことが出来ない。

もうだめだ。

そう思った時だった。

目の前に黒い影が飛び出して来た。

その影は銃弾を受けるや否や兵士に向かって発砲した。

黒い影が先に倒れ、それを追うように兵が倒れた。

兵は動かない。

頭を撃たれているようだ。

影は!

あの影は誰だったんだ!

時間の流れが元に戻った。

あの影はアベルだった。

「アベル!大丈夫か!」

「馬鹿野郎!俺より先に逝くつもりか!」

「俺達に恥をかかせる気か!」

アベルの威勢はいい。

「早く行け!馬鹿野郎!」

アベルは倒れたままで、迫りくる敵兵に発砲を続けた。

「早く行かないと撃つぞ!」

ヒドラの兵を撃っている銃を持つ手。

その反対の手で持った銃をアベルは俺たちに向けた。

「ここで死にたいなら俺が殺してやる。」

「ぐずぐずするな!早くいけ!」

俺はロゼッタを連れて走った。

振り向こうと思ったが俺はそれを止めた。

アベルの意思を無駄にしたくはない。

迎え撃つ銃声が止んだ。

アベルの弾が切れたのだろう。

その後、2、3発の銃声が聞こえて銃声は止んだ。

俺達は捕虜の群衆の中に紛れ込んでいた。

出口は近い。

「ありがとう。アベル。」

俺はそう呟いて先を急いだ。

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