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第31話 カロンの悲劇

俺達は解放軍の本拠地、洞穴の奥にいる。

そこにはレイモンド、アレクシス、クレイグ。
そしてマドックとマットもいた。

外では解放軍の最後の宴が始まっていた。

「いいか、よく聞いてくれ。」

レイモンドが話し始めた。

「どうやら俺達は大きな勘違いをしていたようだ。」

ヒドラとカロンの同盟。
その同盟をより強固なものとする為、
カロンの王女は人質にヒドラに捉えられた。

ヒドラの若き独裁者。
ヒドラ国王の妃となったのだ。

「ここまではいい。」

「問題はここからだ。」

悲劇の王女と思われたカロン国王女であったが、
実情は違っていた。

カロンの王女は自ら力のあるヒドラ国王の妃になった。

カロン王は国民感情を考えて、あえて悲劇の王女とした。

やっかいなのはその王女だ。

ヒドラの王妃となったカロン王女は、
ヒドラで贅沢の限りを尽くし、そして他の国を残虐に扱った。

カロン王妃であった頃の面影はもう無い。

ヒドラの王と同じ、いや、それ以上の残忍さだ。

クレイグに監視を付けたのは、
お前の性格を良く知っている王妃の提案によるものだった。

オスニエルをよこしたのも王女だ。
いや、今はヒドラ王妃だな。

「そうだったのか。」

アレクシスが呟いた。

レイモンドは話を続けた。

「驚かないでくれ・・・。」

「どうした?」

アレクシスとクレイグは声を揃えた。

「カロン国王はもういない・・・。」

二人は驚きの表情を隠せなった。

「そしてカロン王妃も、もうこの世にはいない。」

二人は顔を見合わせている。

「どういうことだ?レイモンド。」

「ヒドラの暗殺部隊が暗殺したらしい。」

「カロンはいったいどうなるんだ!」

クレイグはそう叫ぶと地面を叩いた。

「落ちつけ、クレイグ。」

「いま俺達が動揺してどうなるものでもないだろう。」

レイモンドはクレイグの肩を叩いた。

クレイグはそれに小さく頷く。

「カロンの統治は誰が?」

「ここからは更にやっかいだ。」

「暗殺の事は伏せられている。」

「国王に近い人間さえも知っている者は少ない。」

「国の統治はヒドラより戻ったヒドラ王妃が行なう事になった。」

「あくまでも臨時的な措置という事になっている。」

「もうすぐ、ヒドラから新しいカロン国王が送られる手はずだ。」

「カロンはヒドラに乗っ取られるのか!」

クレイグは悲痛な面持ちで叫んだ。

「いや、誇り高きカロンの国だ。」

「そう簡単にヒドラの思い通りにはいかなかった。」

「暗殺後、王妃がヒドラの国から戻ってきてから
彼女の近辺で不審な死が続いた。」

「王妃が自分に反対する者を殺していたんだ。」

「それを知った故国王の側近の一人が・・・。」

「どうした?」

アレクシスがレイモンドに詰め寄った。

「側近の一人が王妃を殺した・・・。」

「なんということだ・・・・。」

アレクシスとクレイグは頭を抱えて下を向いた。

「なんということだ・・・、カロンはこれからどうなる?」

「国王、王妃、王女・・・。」

「みんな死んでしまったのか・・・・。」

「ヒドラの策略に巻き込まれて・・・。」

アレクシスは深く嘆いている。

「カロンから王族と言われる人間はいなくなった。」

レイモンドが言葉を添えた。

沈黙の後、クレイグはこう言った。

「なあ、レイモンド・・・聞いてくれ。」

「この戦いにお前は参加するな。」

「お前は生きろ。」

「お前は兵に慕われている。」

「戦略も将来の展望を決めるのもこの中でお前に勝る者はいない。」

「カロン本国であってもだ。」

「お前ほど統治の才能がある奴はそういないだろう。」

「だから解放軍の大将をお前に頼んだ。」

「なあ、レイモンド。」

「お前だけは生きろ!」

「そして俺達のことを後世に伝えてくれ!」

「そしてカロンを頼む!」

クレイグの叫びは悲痛であった。

「クレイグ、お前は俺に生き恥を去らせというのか。」

「違う!レイモンド!」

今度はアレクシスがレイモンドを諭す。

「レイモンド・・・。」

「俺達はいつもお前に嫌な役目ばかり押しつけているな。」

「だが、これが最後だ。」

「その役目を受けてはくれないか。」

「俺達の最後のお願いだ。」

「レイモンド、カロンにはもうお前しかいないんだ。」

「少し考えさせてくれ。」

そう言ってレイモンドは横になった。

長い夜が明けた。

レイモンド、アレクシス、クレイグは解放軍に作戦を伝えていた。

多勢に無勢の常套句といえば奇襲、それも夜だ。

今回の作戦も夜に奇襲を行なうことになった。

あの夜と同じだ。

クレイグが来た。

「あの夜と同じ作戦だ、トライオード。」

「今度は仲間を見殺しにはしない。」

「俺も一緒だ。」

クレイグはそう言った。

その時だった。
背後に人の気配を感じた。

「おお、クレイグ!久しぶりだな。元気だったか?」

「お前はもう軍人じゃないんだろ?」

「クレイグと呼ばせてもらうぜ。」

そういってその男は後ろで笑い出した。

聞き覚えのある声だ。

誰だ。

「お前はトライオードだな?」

俺は名前を呼ばれ振り返った。

そこにはアベルが立っていた。

「アベル!」

俺は立ち上がり、そして固まった。

「なんて目で俺を見ている、トライオード。」

「ちゃんとこのとおり足もあるぜ!」

「ほら!この足の傷跡を見てみな!」

「お前があの夜手当てしてくれた傷だ。」

「お前は腕が良いと聞いていたが当分疼いたぜ。」

「てめぇ、もしかして手を抜きやがったか。」

アベルは大声で笑い出した。

俺はまだ固まっている。

「今まで黙ってて悪かったな。」

クレイグが言った。

「あの夜、俺はスパイとして自分の部隊を売った。」

「役目を終えた俺は一人でヒドラの偵察キャンプに行った。」

「あちこちで俺の部下が死んでいた。」

「俺は目を合わす事ができず、その場をやり過ごそうとした。」

「そんな時だった、倒れていた一人の兵が俺の脚を掴んだ。」

「アベルだった。」

「アベルは俺に銃を向けてこう言った。」

「理由を言え!おれの仲間を売った理由を話せとな。」

「アベルは何か深い訳があると悟っていたようだった。」

「俺はアベルを安全な物陰に誘導し理由を話した。」

「アベルは俺を許さないと言った。」

「だが、ここでは俺を殺さないとも言った。」

「そこで俺を殺したければ解放軍に参加しろといったんだ。」

アベルが話に割って入った。

「ああ、それで俺はここにいる。」

「クレイグの奴を殺すためにな。」

「ああ、全てが終わったらそうしてくれ、アベル。」

「アベルとトライオードに殺されるなら俺は本望だ。」

「嘘だ、クレイグ。」

「俺はとうの昔にアンタを許している。」

「俺には判る、死んだ仲間もアンタを許している。」

アベルはそう言った。

「なあ、トライオード。」

俺は返事をしなかった。

俺は自分も、クレイグのことも、
まだ許せてはいないのだろう。

「おい、トライオード!」

「お前はまだクレイグのことを許してやってないのか?」

「本当にケツの穴の小さい男だな、トライオード。」

「まあ、お前は軍人じゃないから判らないか。」

「俺達軍人はお前と違って馬鹿で単純なんだ。」

「なあ、クレイグ。」

アベルは俺の肩を叩いて、そして笑った。

「お前達はもう軍人では無いだろ。」

「ああ、そうだったな。」

「細かいことを言うな、なぁ、トライオード先生よぉ。」

アベルはまだ笑っている。

トライオード先生か・・・・懐かしい呼ばれ方だ。

ロゼッタ・・・もうすぐだ。

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