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第30話 独眼の大将

起き上がってきたのはクレイグ大佐だった。

「上出来だ、トライオード。」

「どうやらお前には別の才能もあるようだな。」

「人を殺す才能はいらない。」

俺は昔の口調に戻っていた。
目の前にいるのは俺の知っている大佐だとようやく判ったからだ。

「もし俺の弾が大佐に当たっていたらどうするつもりだったんだ。」

「当たりはしないさ。」

「どうしてそんな事が言える。」

「俺は大佐だ。幾手も先を読んで行動する。」

「それに俺の死ぬ時は今じゃない。」

「時代は今俺を殺さない。」

俺は呆れた顔になった。

「軍人という奴は馬鹿ばかりだな。」

「ああ、馬鹿でないと軍人は務まらないさ。」

大佐は服をパンパンと叩きながらそう言った。

「行くぞ、トライオード。」

「どこへだ?」

「忘れたのか?あれからちょうどひと月だ。」

「いくぞ!」

俺達は部屋を飛び出した。

外では同じ服を着た兵が撃ち合っていた。

大佐と俺は物陰で様子を伺っている。

「行かなくて良いのか?」

「マットに任せておけば大丈夫だ。」

やはりマットは味方だった。
そしてそれ以外にも味方はいた。

同士と呼ばれる仲間達だ。

銃声が鳴り止んだ。

マットが俺達の所にやってきた。

「大佐、少し時間は掛かったがここは制圧した。」

「同士達を連れて急いでここを離れよう。」

「追手が来るかもしれない。」

「よし、みんなトラックに乗れ!」

「出発だ!」

「マット、運転はたのんだぞ。」

「ああ。」

俺と大佐も乗り込んだ。

夕の刻が過ぎる頃。

俺達はアレクシス大佐の所に着いた。

そして合流後、直ぐにレイモンド大佐のもとに向かった。

俺とクレイグ大佐、そしてアレクシス大佐は同じトラックにいた。

「クレイグ、どうだった。」

「ああ、宮殿の方は上々だ。」

「マットが巧くやってくれた。」

「それにトライオードもな。」

「そうか。」

「すまないな、トライオード。巻き込んでしまって。」

アレクシス大佐はそう言った。

「いや、自分で決めた道だ。構わないさ。」

俺は答えた。

「そういえば、クレイグ。お前負傷しているじゃないか。」

「ああ、撃たれたが掠り傷だ。大事ない。」

「それに俺には名医が付いている。」

「死神が来たって、邪魔だと追い返すだろうよ。」

クレイグ大佐は俺を見て笑った。

「まったくだ。」

アレクシス大佐も笑い出した。

「トライオード、これからはお堅い口調は無しだ。」

「俺のこともあいつもことも、アレクシス、クレイグでいい。」

「そうだな、俺達はもう軍人ではないからな。」

「ああ、わかった。」

幾日が過ぎた頃だろう。
俺達は山脈に近い洞穴に集まった。

それにしても大きな洞穴だ。

「ここはどこだ?」

俺は二人に尋ねた。

「ああ、ここか?」

「ここは昔、カロンが採掘を行なっていた鉱山の跡だ。」

ここから程近いところに『捕虜の町』がある。」

・・・ロゼッタもそこに居るのか。
今でも生きているのか?

「捕虜の町には俺達の同士はいない。」
「兵士は皆ヒドラの兵だ。」

「なぜヒドラは捕虜を殺さない。」
「あの非道で残虐なヒドラの軍が。」

俺は不思議に思って二人に聞いた。

「捕虜はヒドラの切り札だ。」

ヒドラとカロンの同盟は非道なやり方でニクスを侵略している。
近隣諸国は他国の争いと黙認していたが事情が変わってきた。

さすがのヒドラも近隣諸国の合同部隊がお出ましとまれば、
優勢な戦いとはいかないだろう。

そこで捕虜の町を作ってそこに捕虜を集めた。

近隣諸国の動きを封じるために。

ヒドラは近隣諸国がこの戦いに干渉するようであれば、
数ヶ所ある捕虜の町を殲滅し、ニクスへの進行をより強めると
近隣諸国に向けて声明を出した。

ヒドラにとって捕虜の町は戦を優勢に保つために必要な切り札だ。

「そうだったのか。」

俺は小さく頷いた。

洞穴の奥から一人の男が近づいてきた。

レイモンド大佐だ。

「アレクシス、クレイグ!」

三人は抱き合って再会を喜んだ。

その後ろにはマドックもいた。

「トライオードも元気だったか?」

「ああ。」

「なんだ?この前と随分と雰囲気が違うじゃないか。」

「レイモンド、これが本当のトライオードだ。」

「そうか、噂どおり偏屈で人を寄せ付けない雰囲気だな。」

「気に入ったよ、ようこそトライオード。」

「あらためて自己紹介しよう、俺はレイモンドだ。」

「もう軍人ではないから、レイモンドと呼んでくれ。」

「ああ。」

クレイグが口を開いた。

「ところで、どうしたレイモンド・・・その傷は。」

レイモンドの顔には包帯が巻かれていた。
血がにじみ出している。

それに片腕は肩からの包帯で吊られている。

「ああ、これか?」

「少ししくじっちまってな。」

「クレイグの家に行った時にやられちまった。」

「俺の家にまで監視がいたのか。」

「ああ、お前はずっとマークされていたようだ。」

「ヒドラの連中には、お前が俺達の中でいちばん
誇り高き高潔な軍人に見えたのだろう。」

「なあ、どう思うアレクシス。」

「俺の方がこいつより上だろ?」

レイモンドは笑っていた。
そして直ぐに神妙な顔つきに変わった。

「クレイグ、お前の家族の最後の言葉だ、よく聞いてくれ。」

「『誇り高く生きよ。』、そう言っていたよ。」

「そうか。俺の事を恨んでいただろうな。」

「それは違うぞ、クレイグ!」

「お前の家族は心からお前を誇りに思っていた。」

「俺が手をかける直前、俺に辛い役回りを受けてくれてありがとうとも。」

「良い家族だな。」

「ああ。俺にとっても誇りだ。」

少しばかりの沈黙が続いた。

「よし!役者は揃った!みんな外へ出ろ!」

レイモンドがそう叫んだ。

外に兵達が・・・いや、同士達が集まった。

三人は少し高い位置に立っている。

アレクシスが最初に演説を始めた。

「同士の諸君!誇り高き同士の諸君よ!」

歓声が沸き起こった。

「これから我々は最後の戦いに備える!」

「まだやり残したことがある者!」

「守りたいものがある者!」

「愛する者の為に生きる道を選ぶ者!」

「遠慮は要らない!」

「明日の朝までにここから退去しろ!」

「それでも!」

「それであってもだ!」

「君達が我々の同士であることは変わらない!」

「我々の行く末を見守り、後の世に伝えてくれ!」

「これも大切な同士の務めだ!」

「なあ!みんな!」

怒涛のような歓声が沸き起こった。

「今からこの同士の集まりを解放軍と呼ぶ!」

「解放軍の大将は・・・レイモンドだ!」

歓声があがり、皆は帽子を振り回している。

「静粛に!」

レイモンドが叫んだ。

解放軍の兵士は静まった。

「俺が今から指揮を執るレイモンドだ!」

「お前達の命は今日から俺が預かった!」

「俺達の目的は捕虜の町の解放とする!」

「これは勝ち戦ではない!」

「もう一度言う!これは勝ち戦ではない!」

「我々の命を以てカロンの目を!」

「近隣諸国を!」

「深い眠りから覚ますのだ!」

「その後のことは時代に任せる!」

「時代を動かせ!」

「時に名を刻め!」

「我らが命を以て!」

歓喜の渦は最高潮に達した。

今度はクレイグが演説を始めた。

「静まれ!」

「我々は3隊に分かれる!」

「レイモンド隊!」

「アレクシス隊!」

「そしてクレイグ隊だ!」

「一気に畳みかける!」

「決戦は明後日とする!」

「今日は飲め!」

「歌え!」

「騒げ!」

「この世に未練を残すな!」

「そして明日から!」

「明日から!」

「レイモンドと供に!」

「古き良き日のカロンの為に!」

「平和を愛するニクスの民の為に!」

「我々はこの命を差し出す!」

「良いか!」

歓声が湧き上がった。

その歓声は暫くのあいだ静まることはなかった。

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